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お久しぶりです!H松です。今日は学びのナビゲーターの、のえるさんと一緒に、「優先席」の歴史についてお話します。のえるさん、よろしくお願いいたします!

よろしくお願いします!!
「優先席」って、いつからあるの?
「優先席」ができたのはいつ頃なのでしょうか?歴史を調べてみました。
(1)日本初の「優先席(シルバーシート)」の誕生
1973年の9月15日(敬老の日)に、東京都のJR中央線と、静岡県の伊豆箱根鉄道に「シルバーシート」という名前の座席が誕生しました。これが、今の「優先席」の始まりと言われています。「シルバーシート」は、高齢者と身体障害者のための席とされていました。また、JA中央線のすべての車両に「シルバーシート」があったわけではなく、最初は1号車、4号車、10号車のみで始まったのだそうです。

シルバーシートができたときの写真が、下記のサイトにありました。伊豆箱根鉄道の写真ですが、モノクロの写真で、時代を感じますね…。
元々、JR中央線には、先頭車両に「婦人子供専用車両」が設けられていました。これは、平日の朝の時間に、会社へ向かう人たちで混み合う状況から、子どもや女性を守ろうという考えで生まれた取り組みだったそうです。この専用車両は、「シルバーシート」ができたあとに、実は一度、なくなっています。

今、朝の時間に女性専用車両がありますが、「シルバーシート」ができる前から、専用車両ってあったんですね。

でも、なんで、「シルバーシート」ができたことで、専用車両はいらないという話になったのでしょう?
その理由について、『国有鉄道』という雑誌に、こんなことが書かれています。
最近、利用者の間にも婦人子供専用車不要論が次第に有力になっている折でもあり、むしろもっとも保護されるべき旅客は老人と身体の不自由な人との観点から、今回廃止することにした。
菅建彦, 「国有鉄道」1973年10月号

ふーむ。このときは、子どもや女性よりも、高齢者や身体的な障害を持つ人のほうが「保護」されるべき人だという考えが強くなっていたんですね。

誰が「優先」されるべきなのか、という議論は時代によって変わってくるんですねえ。
ところで、「専用」と「優先」ってなにが違うの?
ここまで、「専用」と「優先」という言葉がたくさん出てきました。

ところで、「専用」と「優先」の違いってなんなんでしょう?

むむ!?良いことを聞いてくれましたね。ちょっと、辞書で調べてみましょうか。
専用…その人だけが使用すること。
三省堂『新明解国語辞典第3版』
優先…ほかの何よりも先にそれをする様子。
三省堂『新明解国語辞典第3版』

例えば「子ども専用席」と言われたときには、子ども「だけ」しか使えない席という意味になりますね。だから、大人しかいないときでも、その席に座ったらダメですよ!ということになります。

もしも「子ども優先席」があって、子どもと大人が同じタイミングでその席に座ろうとした場合は、子どもがその席に座る権利があるということですね。

そうですね。でも、例えば、子どもがいないときに大人がその席に座っていても、全く問題ない席ということでもありますね。

「優先席」というのは、「優先」されるべき人がいて、その人が席に座りたいなと思っているようであれば、席をゆずりましょうということなんですね。
ところで、なんで「シルバー」なの?

「専用」と「優先」の違いは分かったのですが、そういえば、なんで「シルバー」っていう表現になったんでしょう?
「シルバーシート」という名称になったのは、当時のJR(国鉄と言われていました)が赤字続きで、「新幹線0系車両の座席シートの布が余っていたから、それを使おう!」という話になり、その布の色がシルバー(灰色)だったからという理由なのだそうです。

色がシルバー(灰色)になったのは、新幹線の座席シートの余りの色だったからなんですね…。言われてみると、たしかに、そっくりです。

もしも、緑色の布が余っていたら「グリーンシート」になっていたかもしれないんですね(笑)
下記のサイトに、東海道新幹線0系車両の座席の写真があります。H松が子どものころは、「優先席」と言えばこの、シルバー(灰色)の座席でした。
新幹線座席くらべ(他のサイトにリンクします)
(2)シルバーシートから、「優先席」へ
こうして生まれた「シルバーシート」でしたが、「シルバー」という表現が、白髪と結びつきやすく、高齢者専用を思わせるという理由で、「優先席」に変更しようという動きが出てきました。
日本で最初に、「優先席」という表現に変更したのは、京王電鉄だったそうです。京王電鉄が「優先席」という表現に変更したのは、1993年のことでした。京王電鉄が「シルバーシート」の名称を「優先席」に変えたあと、他の会社も同じようにしていきます。例えば、京王電鉄が名称を変えた4年後の1997年にはJR東日本が「優先席」に名前を変更したり、その2年後にはJR西日本も同じように名前の変更を行っています。

「優先席」という表現ができたのは、今から約8年前なのですね。もっと昔からある表現なのかと思っていましたが、意外と最近でしたね。
今の「優先席」、「優先」されるのはどんな人?
それでは、今、「優先席」で「優先」されるのはどんな人なのでしょうか?JRのWebサイトでは、「優先」されるべき人を以下のように説明しています。
ご高齢の方やお身体の不自由な方、内部障がいのある方、乳幼児をお連れの方、妊娠されている方などのための優先席を普通列車の各車両に設置しています。
JR東日本, 「車内の主な設備紹介」

年をとった人、障害のある人、体調が悪い人、赤ちゃんと一緒にいる人、お腹に赤ちゃんがいる人など、「立っているのがつらいなあ」と感じる人が「優先」されることになっているんですね。
「優先席」に関する問題
でも、「優先席」について、実際には色々な問題点があるとも言われています。

電車に乗ると、混んでいるのに「優先席」だけ人が座っていない…という風景をよくみかけますよね。

なんとなく、「座ったらダメなんじゃないかなあ…」と、遠慮してしまうんですよね。どんなときに座っていいのか、ハッキリ分からないなというか…。
JR東日本が行った調査では、席をゆずる気持ちにならない理由として、「優先席の対象となる人なのかはっきりとはわからないから」「声をかけると逆に失礼になるかもしれないから」という理由がどの年齢でも多く挙げられているという研究結果が出ています。
また、NHK for Schoolでは「優先席」について、「このような問題もあるよね…」と伝える番組を配信しています。

たしかに、「電車の中で立っているのがつらいなあ…」と思っている人がどなたかというのは、見た目だけでは分かりにくいこともありますよね。

しかも今、みんなマスクをしていて、話しかけにくい雰囲気がすごくします…。「ゆずってほしいのに」と思っている人と、「ゆずりたいんだけどなあ」と思っている人との間のコミュニケーションが取りにくいんじゃないかとも思います。
「ゆずりますマーク」というアイディア
席をゆずりにくにいという問題に対して、「こんな解決法があるのでは?」という提案がなされています。それが、「ゆずりますマーク」です。
席ゆずりますマークのwebページです。残念ながら、漢字にふりがなはありませんが、ゆずりますマークの写真がのっているので、よかったら見てみてくださいね。
席ゆずりますマークのホームページ(外部サイトにリンクします)

「ゆずりますマーク」って、恥ずかしながら、初耳でした。デザインも、初めて見ました。でも、このマークをつけていると、どんないいことがあるんでしょうか??

例えばですが、お腹に赤ちゃんがいる人は、ふらついたり、立ちくらみが起こったりといったような、立っていることで引き起こされる低血圧の症状(体のすみずみまで血がいきわたりにくくなっていること)が起こりやすい状態です。これは、体調が急激に変化しやすい状態でもあります。そんな状況なのですから、可能であれば座りたいと思う人も多いと思います。そんな人が、「ゆずりますマーク」をつけている人を見て、「席をゆずってください」と言いやすくなるのは良いことだと思います。

なるほど。「ゆずってください」と声をかけるにも、勇気がいるんですね。でも、お腹に赤ちゃんがいる人が身に着ける「マタニティーマーク」というのもありますよ?それではダメなんでしょうか?
もしかしたら、みなさんも見かけたことがあるかもしれません。下記の厚生労働省のサイトに、マタニティーマークの写真が掲載されています。
マタニティーマークについて(外部サイト:厚生労働省にリンクします)

「マタニティーマーク」でもダメというわけではないと思うのですが、実は、「マタニティーマーク」を身に着けていることによって、嫌がらせを受ける対象になって、嫌な態度をとられてしまったということもあるそうなんです。

えええ!!なんてことだ……。

もちろん、「マタニティーマーク」がそのものが悪いというわけではないのですが……。でも、「マタニティーマーク」をつけている人を「弱い人」と勝手に決めつけて、自分よりも下に見る大人がいるという事実はあるんですよね。

確かに、そういう大人もいると思うと、「マタニティーマーク」をつけたいんだけれど、怖いなあとためらってしまう気持ちになるのも、うなずけます。

「ゆずりますマーク」は、席をゆずる側がつけるマークです。ゆずって欲しいと思う人だけが、マークをつけるのではないという点で、良いアイディアだと思います。それに、マスクをしていて声をかけにくいという問題も、このマークがあれば、声を出さずに「席をゆずっても良いですよ」という自分の気持ちを目の前の人に伝えることもできます。

なるほど。席をゆずられる側だけがマークをつけるのではなく、ゆずる側にも自分の考えを伝えられるマークがあるんだよというのは、今までになかった考えですね。それに、電車内でお話をしにくい雰囲気がある中で、「ゆずりますマーク」は役立ってくれそうです。

「席をゆずりましょうか?」とお声がけして、断られたらどうしよう!?と毎回ドキドキすることも少なくなるかなとも思います。「ゆずりますマーク」を下げておくことで、「席をゆずりますよ」と常に伝えることができるので。

なるほど。気まずいと思う気持ちを減らすこともできますよね。そうすると、混み合っている電車内で、優先席だけが空いていることも、「ゆずりますマーク」が解決してくれるかもしれませんね。

多くの人に、「ゆずりますマーク」もあるんだよと、知ってほしいです!!
「ゆずりますマーク」、津田塾大学で配布しています!!
今回、津田塾大学に80個ほど「席ゆずりますマーク」の提供品を頂きました。小平キャンパス本館・ハーツホンホール1階企画広報課にて配布しております。キャンパスに行かれる機会のある方は是非手に取ってみてください!
(SNS等でのシェアもしていただけると嬉しいです!)大変な状況が続く中ですが、より優しい世の中になっていきますように。

「ゆずりますマーク」のご提供、本当にありがとうございました!厚く御礼申し上げます。
山口小春・溝口元, 2019,「JR 武蔵野線における優先席」『立正社会福祉研究』20(34), 59-69.
交通協力会, 1973, 『国有鉄道』10月号.
押越良介・坂入整, 2014, 「優先席に関する調査研究」『JR EAST Technical Review』47, 13-18.