まなキキ オンライン講読会 第三講

書籍『コンヴィヴィアリティのための道具』の表紙写真と「第二講」の文字 オンライン講読会

さんかくすと文がえます

 

  

勝手に国語の特別企画もとうとう最終回目となります。
「まなキキオンライン講読会」の実践を通じて、
思想を学ぶ―『コンヴィヴィアリティのための道具』を読む体験はたのしんでいただけたのでしょうか。

開催趣旨

― 社会が激変し、時代がれ動く時こそ、思想を学びたい。

「学びの危機」研究会では、今だからこそ意味がある学術書の講読会をオンラインで一般公開して開催します。
津田塾大学の研究者・大学院生が報告し、みんなで議論する形式です。
ぜひご参加ください。

第三講 概要

開催日時

 2020年7月23日(木)
 (前半)16時20分 ~ 17時50分 『情弱の社会学』
 (後半)18時 ~ 19時30分 『コンヴィヴィアリティのための道具』

講読担当者(『コンヴィヴィアリティのための道具』)

 Kさん  
  Ⅳ.回復(187頁 ~ 217頁)

  当日の資料(PDF)

 大学生Mさん  
  Ⅴ.政治における逆倒(219頁 ~ 240頁)

  当日の資料(PDF)

コメンテーター

 H松さん
 K原先輩

購読文献情報

コンヴィヴィアリティのための道具
(クリックするとAmazonのサイトに移動します)

  イヴァン・イリイチ著 渡辺京二、渡辺梨佐訳  ちくま学芸文庫(2015年)


  2020年7月9日(木)18時 ~ 19時30分
    Ⅰ. 二つの分水嶺(21頁 ~ 35頁)
    Ⅱ.自立共生的な再構築(37頁 ~ 107頁)
  2020年7月16日(木)18時 ~ 19時30分
    Ⅲ.多元的な均衡(109頁 ~ 186頁)
  2020年7月23日(木)18時 ~ 19時30分
    Ⅳ.回復(187頁 ~ 217頁)
    Ⅴ.政治における逆倒(219頁 ~ 240頁)
 

より理解するために―

情弱の社会学
(クリックするとAmazonのサイトに移動します)

  柴田邦臣著  青土社(2019年)

  

リライトダイジェスト

講読会・前編報告(K)

多くの方からコメントを頂き、皆さんと議論を深めることができました。ありがとうございました。ここでは、挙げさせていただいた2つの論点について振り返りたいと思います。

論点1 教育と学び

 イリイチは、権利とは、創造的な活動をすることを求めることではなく、産業主義的商品(教育や仕事など)を受け取ることだと勘違いするようになっているということを指摘しています。(p.195-202 言葉の発見)

自分の問い
このCOVID-19のクライシスのなかで、「学び」は、改めてどのようにして継続できるでしょうか。

 「学びの危機 ”Learning Crisis”」に拮抗すべく、私たちは「学び」を得ることを絶えず求める訳ですが、その「学び」という言葉には、創造的な活動を自主的に行うという意味が含まれているように個人的には感じます。

論点2 法律と教育

 イリイチは、産業主義的な拡大を支える形になってしまっている政治的・法的過程において、公的手続きに関わっているという自覚が必要であり、その点で、慣習法が備えている当事者的な性格と連続性が重要であるとしています。(p.202-217 法的手続きの回復)

 私は、法的な問題と学びの問題を結びつけて考えてみました。法的手続きに関わっているという自覚を持つことは、学びに置き換えてみると、学びの過程に関わる、つまり学びの主体は私たちであるということの自覚を持つことの必要性を感じます。これは、当たり前のようでそうではなかったりします。なぜなら、教育を所有する権利を無意識のうちに求めているからです。一方、科学と教育の結びつけがうまくいくのに対し、法律と教育の結びつけがうまくいきませんでした。法律は、どこか遠いもののように感じていて、それこそ公的手続きに関わっているという自覚、当事者的意識が薄いのだと自覚しました。

 『「法律」の問題と「教育」の問題はどう結びつくのか分かりにくい。法的な問題と学びの問題のつなぎをもう少し考えてみたい。』という参加者の方のコメントから、議論が繰り広げられました。

会場からのコメント1
民主主義的な国の日本では、法律を作る人をみんなで選ぶようになっている。国会議員であれ、法律を作る人を選ぶときに、個々の人がどう関わるか、ということを考える方法を伝える役割を教育が持っているのではないか。法律を持つ国家の人々は、人々が法律に関わっていく上でかかわり方を学ぶことを重視しているのではないか。

教育を受けた人々がゆくゆくは法律を作ったり、法律を作る人を決めたりする。立場や関わり方は違えど、法的手続きに私たちは関わることになる(関わっている)のですよね。

会場からのコメント2
法律というのが、なかなか日常生活とは結び付きませんでした。道具として、当事者が関わる手続きを大事にしていくこと、そのための学びが大切ではないかという議論は、非常に考えさせられました。

「学び」は、社会そのものに関わることの基礎を形作るものであると再認識させられた議論でした。

Kさん
Kさん

ご参加くださった皆さま、本当にありがとうございました。実は、レジュメの作成は初めての経験でした。H松さんに作り方に関する助言を頂き、完成&発表に漕ぎ着けました。若手も頑張って参ります!

講読会・後編報告(大学生M)

今回の購読会で議論が活発になった2点を論点としてあげます。

論点1. イリイチはどんな社会を目指しているのか

産業主義社会(管理的ファシズム)を克服するためには、政治的過程を通して道具の限界を保ち希少な資源のうち請求できる量を決めることが必要であり、そのためには次の3つが重要だとイリイチは述べています。

①より多くの人に限界の必要性や自立共生的生活スタイルを望ましいと思わせる具体的な手順の明確化
②自立共立的な生活に満足するような集団に最大多数の人を巻き込むこと
③限界を再発見し、その中で道具の活用方法を学ぶこと

しかし、産業主義社会は克服できるのか、はたまた克服しなければいけないのでしょうか。講読会ではこの点についてとても活発な議論が行われました。

産業主義社会における成長は幻想?(pp224-229)

「拡大を維持していると思われていた細心なシステム工学によって、実際はあらゆる制度を第二の分水嶺に向けて押しやっている」(p225 l.4)

言い換えると、私たちの「より良い」を目指して成長してきた制度は私たちの自由を奪っている、と言っています。そして、この状態のままでは産業主義社会が崩壊し、社会が混沌となると述べています。そのような崩壊が起きたらどうするべきか、というのが上記にも述べた3点でした。

「コンヴィヴィアルな道具」は存在するのか

ここで、講読会では「“コンヴィヴィアルな道具なんてあるのか」という話になりアンケートを実施しました。アンケートの選択肢は「ある」「ない」「自分が作る!」の3つで、「ある」と答えた人が多数でした。少数でしたが「自分で作る!」という選択肢に投票した方もいました。このようにアンケート結果はばらけていましたが、それは人によって考える「コンヴィヴィアルな社会」が異なるからなのかもしれません。

論点2. 危機の後はどんな社会になるのか/なっていくべきか

では、イリイチのいうような危機が起きた後の社会はどのようになっていくと思うかという話に移り、アンケートを取りました。選択肢は3つで、「産業主義社会以前に戻る」「新しい非産業主義社会を目指す」「今の産業主義社会とうまく付き合う」で、結果は「新しい産業主義社会を目指す」が最も多くの支持を集めました。講読会では、この論点も議論が活発になり、どのような社会にしたら良いか、またそのような社会にするためには私たちはどうすれば良いか、という意見が多く出ました。

大学生Mの私的見解

議論の中でキーワードとなっていたのが“当事者意識”だったように思います。「法律」や「政治」は他人事のような意識が働いてしまいがちです。しかし、議員を選んでいるのも私たちで、今の政治や法律を作っているのも私たちです。一人一人が“当事者意識”を持つことで、「少しずつ我慢をして生活をする」ということが可能になるのではないかと思いました。

イリイチの「コンヴィヴィアルな社会」というのは、どのような社会なのか、そしてそのような社会は危機が訪れたら形成されうるのか、ということに関しては、産業主義社会とは全く別の社会を形成するのは難しいのではないかなと個人的に思いました。というのも、危機が訪れたとしても、また居心地の良い産業主義社会に戻ろうとしてしまうと思うからです。しかし、イリイチは今のCOVID-19が蔓延している状況下で、我々に産業主義社会に戻ろうとしなくても良い、という新たな視点を提供してくれているような気もします。産業主義化された社会に生きる私たちは、その恩恵を受けているためどうしても産業主義社会が良いように感じてしまいますが、それよって失われるものもあることを、イリイチは示唆してくれているように私は感じました。

皆さんは、イリイチのいう社会とはどのような社会だと思いましたか?また、そのためには私たちはどうするべきだと考えますか?

大学生M
大学生M

活発な議論をすることができたのも参加してくださった皆様のおかげです。そして、この講読会のレジュメを完成させるにあたり、K原先輩には大変お世話になりました。

この場をお借りして御礼申し上げます。

また、このような貴重な経験をするチャンスを下さったM先生にも感謝申し上げます。ありがとうございました。

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