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本日の紹介者
こんにちは、えすとれです。ブックレビューも6回目になりました。
Sさん紹介の「星の王子様」、実は読んだことがないんですよ。英語の授業のときに、一部分を教材として学習したくらいです。おや、ここに、父からもらった文庫版が……。積読というやつです、てへ。
私からは和算に関する小説、「算法少女」を紹介します。時代も世界観もがらっと変わりますが、どうぞお付き合いください。
現在授業で教わる数学(西洋数学)に対して、明治維新以前の日本で独自に発達していた在来の数学を「和算」と呼びます。
算法少女
著者:遠藤寛子
出版社:ちくま学芸文庫
出版年:2006年
ISBNコード:4-480-09013-4
※1973年に岩崎書店から刊行されたものが初出。
概要
主人公は13歳の町娘、「あき」。算法を学ぶことが好きな彼女は、お参り先の観音様に奉納された算額に誤りをみつけてしまいます。成り行きからその場で誤りを指摘することとなり、ちょっとした騒ぎに。そして、その出来事を聞いたお殿様から「あきを姫君の算法指南役にしたい」という話がきて!? 他方ではそれを阻止しようと、もう一人の少女を候補に挙げて算法で競わせようとする算法家も現れて……。
「算法少女」とは元々は和算書の名前で、江戸時代の安永4年、西暦でいうと1775年に刊行された本のことです。本作は現存する本と散らばる史実を想像で繋ぎ、織り上げた小説です。「江戸時代が舞台の歴史小説」というと身構えてしまう方もいるかもしれませんが、かるい文体で書かれているので親しみやすいと思います。
絵馬の一種で、数学の問題と答えを記して神社・仏閣に奉納したものです。「これだけの難しい問題を考え、解くことができました」と、感謝を込めて神様・仏様にお知らせするためのものですね。ものによっては問題のみを奉納し、別の人が解いて新しい算額を奉納する、というケースもあったようです。図形問題が多く、図・問・解のすべてを筆で書くため算額は非常に大きなものになりました。
本との出会い
大学4年生の頃、神田神保町の古書店で出会ったと記憶しています。「算法少女」というストレートなタイトルに惹かれ、ひとめぼれで購入しました。
和風で、謎解きがある本が好きです。謎が数学に関係するとなお良いですね。
この本が拡げた世界
和算についての世界が広がりました。「よみ・かき・そろばん」のそろばんがどのくらい町中に浸透していたのか、どのように和算が楽しまれていたのかが緻密に描かれています。いずれ、本物の算額も見てみたいです。
文章での描写に加え、挿絵が想像を助けてくれます。人々の髪型、表情、服装、家具、建物、道具がいきいきと踊る挿絵を見ていると、目の前であきが喋っているような気持ちになります。
それから、本多利明という人物の台詞が強く印象に残っていて、とても勇気づけられました。「算法少女」に登場する人物については、著者のまえがきから引用します。本当にこの通りで、「ある本で出会ったものに、また別の本で出会うこと」はとても楽しく、幸せなことです。
女であれ、男であれ、すぐれた才をもっている人は、だれでもおなじように重んじられなければならない。――それを、どうです。いまこの国では、どんなにすぐれた才をもっている人でも、身分がひくかったり、じぶんたちの仲間にはいっていないと、その才能を認めようとしない人がおおいのです。女のひとを一段ひくくみて、男にはとてもかなわないというかんがえかたも、おなじことです。
算法少女 p.195 本多利明の台詞
この本に登場する人物には、実在の人にまじって、わたしの心の中で生まれた人もかなりいます。でも、だれがどちらか、などは申し上げないでおきましょう。このうちのいく人かに、どこかの本の中で思いがけず再会されることがきっとあるでしょう。それが読書の楽しみのひとつだと思います。
算法少女 p.005 はじめに
物語を通した、あきの成長もみどころです。物語の中で、あきは多くの人とかかわりを持ちます。町の人、武家の人、子供、大人、学問を修めた人、そうではない人……。それぞれの考えとぶつかりながら、あきは何を思い、どんな道を選ぶのでしょうか。その物語を読むあなたは、どう思うでしょうか。是非見届けてください。
教科との関連
タイトル通り、算数・数学と関連します。本文中に出てくる問題から、和算ではどのような定理・公式に関心が持たれていたのかを知ることができます。当時から「三平方の定理(ピタゴラスの定理)」は有名だったようですね。
さて、2ページ目では「算法少女」に登場した問題を実際に解いてみます。どこで登場するかは伏せますので、楽しみにしながら読んでみてください。なお、「算法少女」の本文中に詳細な解き方(テスト用紙に書くような解き方)は書かれていません。
算数・数学の一番楽しいところは、「どの問題もひとつの答えに繋がっている」ことと「答えに繋がる道はひとつではない」ことだと思います。解に辿り着く道をなぞればなぞるほど力がつきます。……これは数式を扱う科目全般、そしてプログラミングにも言えることですね。