【開催報告】「Learning Crisis」に関する実態調査 中間報告会について

さんかくすと文がえます

 

”Counter Learning Crisis”プロジェクトでは、COVID-19の影響下、障害のある子どもたちは、今、「学ぶこと」についてどのように捉えているのか、ということに向き合ってまいりました。
私たちは、子どもたちが「学ぶこと」の意味や意義を見失ってしまうかもしれない、ということを「危機」と捉え、その危機にどう立ち向かうことができるのか、さまざまな試みを実施しようとしています。

その試みの一つとして実施されたのが、「Learning Crisis」に関する実態調査
このの調査では、
①長期休校期間中の学校の様子
②休校明けの学校の様子
③教科別の授業/学習の状況について
④その他の学校や子どもたちをめぐる状況について

全国の特別支援学校の皆様に伺っています。(2020年10月25日現在、進行中)

2020年10月25日(日)に、「第2回学びの危機カンファレンス」の一環として、上記調査の中間報告会を開催いたしましたので、簡単にご報告させていただきます。

  

中間報告会に関して

※ 「Learning Crisis」に関する実態調査の中間報告会では、現在進行形の調査について、その時点で寄せられた回答結果をもとに速報的に分析させていただいた内容をご紹介させていただいておりました。
※ 報告時点での分析対象校数は113校となりました。

 

 

長期休校期間中の学校

休校期間中、多くの学校が「課題・プリントの配布」や「電話・ファックスを用いた状況確認や指導」を実施し、「家庭への訪問」や「登校日の設定」などをしている学校もありました。

その中でオンラインサポート支援を実施していたのは、113校中72校。
学校ホームページを使って動画や課題を配信したり、ZOOMやSkype、Google Meetなどを用いて双方向性の取り組みを実施してみたり、YouTubeを利用するなどしていたようです。

休校期間中、新聞報道などでは、「オンライン」がこの”危機”を乗り越える鍵だとする声も多く挙げられていました。
オンライン推進を行う学校の事例は比較的良い例として取り上げられていたようにも思います。

ところが、思っていたよりも「オンラインサポート実施校」と「オンラインサポート未実施校」との間に大きな差があるような結果は示されませんでした

いずれも抱えていた課題は、ネットインフラの問題。セキュリティ上、せっかくネットに接続されていたもあまり活用できなかったり、オンライン環境の整備が不足していたということ、学校だけでなく家庭のネット接続環境に格差があったことなどが報告されています。
また、子どもたちとの関り精神・心理的な負担へのフォローはいずれも先生方が特に課題として感じていたことのようでした。

実際にオンラインサポートを実施したからこそ見えてきた課題もありました。
例えば、オンラインで授業を実施してみても保護者の協力を得られなかったり、そもそもインクルーシブ教育の実施が難しい(盲学校において画像による提示の困難、ろう学校では場面依存的な理解やテレコミュニケーションの困難さ)こと、配信動画がどうしても単発になってしまいやすいことが挙げられました。
逆にオンラインサポートを実施しなかった学校では、家庭や子どもたちのやりとりに制約がかかってしまったことや、学校再開後の人間関係作りが困難になった、などの問題があったようです。

 

オンラインサポートの実施・未実施で先生方が課題と感じる内容にあまり差はみられませんでした。
また、先生方がいずれの場合も家庭訪問や電話などをして家庭と連携を図るなど、奔走されていました。
ただし、「つながり」を維持する機能として、オンラインが果たした役割もうかがえました。

オンラインのサポートを実施したか、未実施であったかは、それを実現する人員の有無によって運命が分かれていたようです。

休校明けの学校

4月から6月までの「緊急事態宣言の発出(4/16)」、「緊急事態宣言の延長(5/4)」、「一部地域を除く緊急事態宣言の介助(5/14)」、「緊急事態宣言の全面解除(5/25)」、「都道府県をまたぐ移動自粛の緩和(6/19)」を示した画像。

休校明け、すぐには通常の登校には戻らずに、「分散登校」を実施した学校もありました。

分散登校中は、ほとんどの学校で先生方はマスクを着用(35%の学校がフェースシールドを着用)し、毎朝体温測定など健康チェック、こまめに換気、共用物品の消毒をしています。
もちろん、ソーシャルディスタンスも重要。机と机の間の距離の確保もほとんどの学校で実施していました。(教卓と机の間に敷居を設置した学校は22%、生徒・児童の机上に敷居を設置した学校は15%)
感染源を断つ努力としても、手洗い指導の徹底、咳エチケットの指導も欠かすことができなかったようです。生徒・児童の私語の制限をしていた学校は38%、生徒・児童同士の身体的距離を保つようにしていた学校は9割に上りました。
学びの在り方にも変化が。運動会や文化祭などの学校行事を中止した学校は91%、社会科見学など体験的学習を中止にした学校も80%となりました。

分散登校期間中、全国的に学校でみられた課題は、
■ 教育課程の時間調整の難しさ
■ 感染症対策の奔走
■ 生徒・保護者の不安へのフォロー
でした。
子どもたちとのつながりを維持する機能として、ここでもオンラインが一役買っている様子がうかがえました。

分散登校の実施・未実施、つまり学校の再開の仕方は、その学校の立地や種類、規模などの条件によって運命が分かれていました。

休校から現在に至るまで―学び編

ここでは、教育上苦労した科目について伺い、その現在の実践情報と抱えている課題についてエピソードを伺っています。

教育上、特に苦労した科目について調査対象校に伺いました。最も多い教科は音楽(50校)、次いで体育/保健体育(45校)、「家庭/技術」(27校)と続きます。

主要教科においては、やはり休校期間の実施の影響から、授業の遅れを取り戻すことに重きがおかれていたようです。
それに伴って「じっくり考える時間の確保が難しい」といった声も聞かれました。

また、「教育上、特に苦労している」科目として目立っていたのが実技を伴う教科、音楽や体育/保健体育、家庭/技術といった科目です。
感染症対策のため、基本的に声は発さない・ソーシャルディスタンスを保つことを実践しようとすると、協同作業は行えず、実施内容にも制約がかかったようです。
歌わない音楽って?話さない外国語って何?」といったとても印象的なご回答もいただいていました。
特に学校によっては、手厚く指導しながら直接的な体験を重視するような教科であるからこそ、最もオンライン教育にそぐわず苦労があった、といった声もありました。


総合的な学習や特別活動などの教科でも困難があったと多く指摘されていましたが、感染症対策のため、児童生徒同士の話し合いの機会が極端に減ってしまったことがその背景にあったようです。
協同体験の困難、直接体験の不足といった声があげられていました。

「自立活動」でも児童同士の関りの難しさが挙げられます。
なかには身体接触が大前提に進められていたような授業や内容もあり、そこでも苦労があったようです。
また、今回の自粛とコロナウイルスへの恐怖心等心理面からか、従来以上に改善が困難になっている、という声も聞かれました。

また、2020年度は小学校で外国語の授業が必修化された年でもありました。
「外国語活動・外国語」の状況も今回の調査でお尋ねしています。
特別支援学校によっては、「外国語活動・外国語」を実施していないところも多くみられましたが(実施を義務化されていないため)、実施校においては、感染症対策によってマスクを装着して授業をする場合、発音の口形が分かりにくい、聞き取りにくい、読みの指導が困難などの課題がもたれていたようです。

ほとんどの教科で学習内容の改変が求められていたことが見て取れるような結果となりました。
また、感染症対策のための授業実践によって、代替不可能な学びの内容が浮き彫りにもなってきたといえます。
授業実践の困難の背景には、ネット接続など環境の問題、教える側・授業を受ける側のスキルの問題がありましたが、それ以上にそもそも内容的にオンライン化がそぐわない、といった実情があったことが分かりました。

休校から現在に至るまで―学校や子どもをめぐる現状

COVID-19の流行前と比較して、学校の運営に変化があったと思われますか?という質問に対する回答結果の円グラフ。「大きな変化があった」68%、「少し変化した」15%、「あまり変わらない」3%、「無回答」14%。

今回のCOVID-19感染症を受けて、特別支援学校の多くが、学校の運営に「大きな変化があった」と回答しています。
「少し変化した」という回答を合わせると8割近くの学校で何かしらの変化を感じていた、ということになります。

学校は、特に、学園祭や修学旅行などの学校行事、集団活動や体験学習などで得られる学びの保障に頭を悩ましていたり、オンライン授業を実施していくためのICT環境の不備やスキル不足に困難や課題を感じていたようです。

実際には、感染症対策をしながら対面での授業も開始させていたわけですが、そこでも「接触を伴うものを極力控えるため、指導の効果が十分に上がっていない授業がある印象」を持ったり、「マスクにより発語の不明瞭な子どもが言っていることが聞き取りにくくなった。マスクを外すようにいうわけにもいかずコミュニケーションが取りにくい」といった「新しい生活様式」下だからこその問題や課題も新たに生じているようです。

子どもたちの変化についても指摘がありました。
多くの子どもたちが感染症対策に意識を持ち、「新しい生活様式」にも適応していること、そのことについて感心もしている、という声も挙げられていたのですが、一方で「マスクや距離の確保等、新しい生活様式が当たり前のようになり、集団での活動への要望もなくなりつつあるのではないだろうか」といった危惧も聞かれます。
心の、子どもたちの内面への影響が心配という声はほかにも聞かれます。「学校生活にも制限があるので、積極性や自主性が抑えられているように感じる」、「体力面、精神面の双方ともに耐える力が低下している」などです。

そもそも学校という場は、子どもたちが人や社会とかかわりあっていくことを学ぶ場でもあります。今後のソーシャルスキルトレーニングについて尋ねると、「自分も感染しているかもしれないという意識」を持った人間関係形成能力が求められる、という指摘もされています。また、感染症予防に関連して、接触や経験を積むことができないのは、生活の質を大きく下げているのではないか、という声も聞かれました。

表面的にはとても統率がとれているといえるが、裏に我慢する気持ちを抱えていないか心配、という先生方の声からは切実な思いが感じられました。

COVID-19感染拡大を受けて家庭での子どもたちの様子、家庭そのものはどのような状況であったのでしょうか。
オンライン授業が実施されたことにより、インターネットを利用しての学習に興味を持つ子どもが増えたこと、訪問授業の在り方が大きく変わる可能性が感じられるなど、決してネガティブなことばかりでもなかったようです。
ただし、依然としてネット環境の差が学習機会の差に直結してしまうこと、家庭によって宿題のアウトプットの格差が大きいなど、各家庭の格差は看過できない問題でもあったようです。また、SNSのトラブルや家庭での利用の仕方も課題となりました。

保護者の方々からは、感染を恐れ、修学旅行などのイベントの中止を希望する声も少なくなかったようです。つまり、学校は「感染予防」と「学びの保障」とで板挟みの状況にあったともいえます。
また、特別支援学校の数の少なさにも由来して遠方から学校に通う場合、地元からの差別感情を無視できないなどの問題もあり、学校では相談を受け付けたこともあったといいます。

まとめ

調査は、COVID-19下で何が起こり、何がもたらされたのかを記述していくことを目的に実施されました。
状況を打開し、適応し、「学び」が続けられた後で、しっかりとこのCrisisを評価していくうえで、COVID-19下での「学び」の実態を記録しておかなくてはならないと考えたのです。
この記事は、速報的にまとめられた中間報告の内容を整理したものですが、調査は現在も継続して実施しています。
最終報告については、2021年1月23日(土)に開催予定の「第3回学びの危機カンファレンス」において実施予定です。よろしければぜひご参加ください。(Google Form)

 

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