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演者のご紹介
吉田 仁美 先生
日本大学文理学部社会福祉学科
2020年度4月より日本大学文理学部教員
(2013年度から2019年度まで岩手県立大学社会福祉学部教員)
専門は障害者福祉、ジェンダー、ソーシャルワーク
新刊情報
来月、朝倉書店より
『持続可能な社会をつくる生活経営学』が出版されます!
吉田仁美先生は第13章の「生活と福祉」をご執筆されています!
ご講演内容
災害が増えている日本社会において、障害者はどのような支援を求めているのでしょうか?
今回は障害の種類の中でも「聴覚障害」に焦点を当てていきます。聴覚障害は外部からわかりにくく、どんなタイミングで、どのようなことに困っているのか理解されづらいと当事者からよく話を聞きます。
そのことを踏まえて実際に聴覚障害者が災害時に求めるニーズについて具体例を用いながら当日は説明を行います。
さらに今回の講演では、聴覚障害の事例を理解したうえで、障害を持つ人のみならず、多様な人とともに生きる地域社会のあり方に話をつなげていきたいと思っています。というのは私たちの住む地域には、健康な若い人だけでなく、高齢者や妊産婦、外国人、病気がちな人もいます。こうした多様な人が地域にいることを考慮に入れて防災を考えていくことが一市民として求められています。当日はそのことについて一緒に考えていきましょう。
講演報告
当日は災害の一被災者として、難聴の当事者のおひとりとして、以下の点を中心にご講演をいただき、「災害のユニバーサルデザイン」を考える貴重な時間を持つことができました。
※ 以下は、先生が当日提示してくださった資料を基に、ダイジェストさせていただいたものです。
日本は災害大国であるということ
日本の国土は、地震を引き起こすプレートの上にあることや活火山が多く、地球上でも地震が起こりやすい場所なのだそうです。
そして、災害が起こったとき、高齢者・障害者はより被害に遭いやすいということが実際のデータで示され、また報じられてきました。
※ 国土技術研究センター、気象庁のページを引用してご紹介くださいました。
ろう・難聴者にとって必要な支援
聴こえ方は、人によって多様です。
難聴でも、伝音声難聴、感音性難聴などがあり、人によって補聴器をつけることで「きこえ」が改善する場合もあれば、「音がある」ということを知ることにとどまり、”ことば”として聞き分けることが難しい場合があります。
補聴器は周囲にある音をすべて増幅してしまうため、普段静かな場所では補聴器を通してよく聞こえている人でも、雑音がある場所では聞こえにくくなってしまうことがあります。
のぞまれる支援者・支援機器
手話通訳者、筆記者、補聴器、筆記具
のぞまれる支援
音声情報を得られていない可能性がある
→ 個別に文字や掲示をみせて、きちんと伝わっているか確認をする必要があります。
→ コミュニケーションの方法として、手話・筆談などがあります。
口話・読話の注意点
・ 相手がみていることを確認してから話し始める。
・ 口をはっきり動かす。(誇張し過ぎると分かりにくくなることも。自然なリズムがよい)
・ ジェスチャーや筆談、空書の併用が有効
・ 口元を見せること。
・ 早口にならないようにすること。
・ コロナ禍の中でマスクをつける必要があるときは、紙に書くなど、伝え方をいろいろ工夫できるとよい。
筆談(メモ)の注意点
・ 短い言葉を使う
・ 難しい言い回しはできるだけ避け、平易な表現を用いる
・ 読みやすい文字を使用する
※ 最近は、携帯電話などICTを使って文章を伝える方法も増えてきているそうです。
災害時の聴覚障害者支援
吉田先生が現場でヒアリングしてきた内容をまとめてご報告してくださっていました。
・ 震災時に音声による情報を聞き取るのは困難。音声情報を視覚情報に変えて提供することが大事。
・ 避難所での情報保障体制について(例えば食糧や水が届く等の連絡が入ることがあるが、その際に筆談で伝える、張り紙で知らせる等の配慮が必要)
・ 行政に手話通訳を派遣してほしい(聴覚障害者が家族の死亡届などの手続きや生活・福祉・生活再建に関する問い合わせを行政等にする場合に必要)
・ 心のケアも必要(手話で会話ができる者同士のコミュニティを求めている)
また、
- 災害のステージによって「ニーズ」は変化すること。
- 今後はコロナ感染防止対策のことも視野に入れる必要があること。
- 対象者の置かれている環境、年齢、家族構成の違いによってもニーズが変化すること。
もご報告くださいました。
災害のユニバーサルデザインを考える
災害時にはライフラインが止まってしまうと、だれもが「情報弱者」になってしまうということもご指摘くださいました。
特に強調してお伝えくださっていた点を、まなキキメンバーの感想として、ご紹介します。
施設内はできるだけバリアフリーにするということ。そして、見やすい案内標識などを表示する、という方法は、子どもたちやお年寄りにとっても、少しでも安心できる環境になりそうだなと感じました。
飲まないといけない薬があったり、苦手な環境やものがあったり、避難所には本当にさまざまな人がいらっしゃる可能性があります。
だからこそ、その人の事情が分かっている人と一緒に過ごすことができるような工夫や配慮も必要なのだということが分かりました。
盲導犬や聴導犬、介助犬とユーザーが一緒に過ごせるような配慮もとても大事ですね。その人が安全に移動したり、情報を受け取ったり、生活に必要だからこそ活躍するのが補助犬です。
補助犬と一緒に過ごすことができること、補助犬が必要な食事や給水を得られるような配慮も大事なのですね。
テレビも「字幕付き」だったり、電話を導入するにしても「ファックス」が使えるようなものを選べるとよいのですね。そうした配慮によって、より多くの人が情報にアクセスすることができ、かつ活用することができるようになります。
もちろん、ご本人の希望に合わせる必要があるのだと思いますが、誰が障害の当事者で、支援者(介助者/介護者)であるのかが分かるように名札などをつけておくことも、混乱下の中で少しでも対応を円滑にするヒントなのだそうです。誰に助けを求めればいいのかが分かりますし、周りの人も少し立ち止まってより適切に、丁寧に振舞えるようになるのかもしれない、と感じました。
また、ツィッターなどのSNSは便利ですが、それを使いづらい人もいるということ、アクセスできない人がいるということも忘れないでほしい、ということを、民生委員の方からの声としてご紹介くださいました。重複障害者の課題についても触れてくださいました。
参考文献としてご紹介くださったもの
・ 男女共同参画統計研究会編(2016)『男女共同参画統計データブック-日本の女性と男性-2015』ぎょうせい
・ 有賀絵里(2014)『災害時要援護者支援対策―こころのバリアフリーをひろげよう』文眞堂
・ 「“Sustainability”への生活経営学的アプローチ―社会を変革していく創造的生活の提案に向けて―」『生活経営学研究』No.47 日本家政学会生活経営学部会
感想・質問などのご紹介
当日会場でもいくつか質疑応答がありました。一部ご紹介させていただきます。
質問
【質問1】
災害の中で難聴者に配慮していく大切さを感じました。しかし一方で地域のつながりが薄くなっている中で誰が難聴者なのか、障害を持っている人なのかがわからないことが多いと思います。その対策はどうするべきか、またそんな中で健常者や情報を得やすい人たちができる支援とは何でしょうか?
聴覚障害者や難聴者は見てわかる障害ではないだけに、周囲の人も対応に困ることもあるだろうと思います。
また私たちも普段の生活に追われて地域に入っていくことが容易でないことがあります。
ですから、無理につながろうと思うのではなく、支援を求められたら支援に応じることができるというスタンスがあればいいのではないでしょうか。
【質問2】
地域の防災放送は音声だけの案内であることに気づきました。少し調べてみても、あまり明確な対策がなされていないと感じました。緊急時に音声の案内以外に効果的な方法はあるのでしょうか?
緊急地震速報は音声が特徴的で、私は音で認識しているのですが、聴覚障害を持つ人は緊急地震速報を受け取ることができているのでしょうか?
携帯電話の振動で認識できるのでしょうか?
最近は地震の際に「緊急地震速報」で情報を受け取ったり、自治体のツイッターやSNSを活用すれば受け取れる情報も増えてきました。
ただ、こうしたツールが十分ではない人もいることもいますので、災害におけるユニバーサルデザインを情報という観点から考えていくことも大事な課題だと思います。
【質問3】
ニュースで手話通訳士の方が同時通訳をしている場面を見たことがあります。毎回通訳の方は黒い服を着ているのですが、これは手の動きを見易くするためなどの配慮から来るものなのでしょうか。
その通りです。厳密に黒でないといけないと決められているわけではないようですが、回答にある通り、手の動きや表情を見やすくするための配慮からきているようです。
感想
九州の豪雨災害と新型コロナウイルスの感染拡大が広がる今だからこそ役に立つ内容が多く勉強になった。障害には様々なものがあり、同じ名前の障害でも程度や個人ごとに差があることが分かった。避難所ですべての人に情報を届けるよう、過ごしやすくするようにはもっと具体的なシミュレーションをするべきであると感じた。避難所マニュアルが今もあると思うが、感染症対策や障害者支援についてより充実した内容のものを作ることができるのではないかと思った。
災害時には誰もが情報弱者になり得るというお話が印象に残りました。私はいつか留学したいと考えているのですが、もし自分が外国で災害に遭い、外国語の情報を理解できなければ、たとえ具体的な障害がなくとも情報弱者になる事態に陥るかもしれないと思い、対象を限定しないユニバーサルデザインの重要性を感じました。
聴覚障害の方のニーズや、話す際の注意点として挙げられていたこと(早口にならない・難しいことばは言い換える・はっきり話す・きちんと伝わっているか確認する等)は、誰と話をするときにも当てはまるコミュニケーション方法だと思った。必要なのは、いつでも相手を思いやる心と、伝えたいという気持ちなのだと感じた。東日本大震災後にようやく会見ニュースに手話通訳や字幕が付くのが当たり前になったと知り、驚いた。それ以前は、情報保障の問題に誰も気づいていなかったのだろうか。それとも気づいていながら、後回しにされていたのだろうか。どちらにしても、悲しいことである。
情報弱者という言葉に関して知識がなかったが、それが障がいのある人だけではなく、私たちも災害によって情報弱者になる可能性があると知ることができ、一気に当事者意識が芽生えました。また、障がいのある被災者、という新しい観点についても考えるきっかけになりました。今九州でも豪雨被害が出ていて、ニュースで流れるショッキングな映像に気を取られがちですが、災害の大きい日本に住む私たちだからこそ、そういった被災地において弱い立場に置かれる人々のことを忘れてはいけないと強く感じました。