言葉でつなぐ、つながっていく② ―「書く」ことを考える・口頭伝承から作文まで

ご機嫌な勉強のススメ

さんかくすと文がえます

 

最近、M先生は『声の文化と文字の文化(著者:W-J・オング、翻訳者ほんやくしゃ桜井直文さくらいなおふみ林正寛はやしまさひろ糟谷啓介かすやけいすけという本を読みました。

そこから、
実際に会って言葉をわすことと、
文字を通じてコミュニケーションをとろうとすること
の違いのようなことを考えていました。

 

著者ちょしゃのオングさんは、
文字を持たない文化の人びと、文字の持たない時代を生きた人びとの考え方や生き方は、文字を扱う私たちの考え方や生き方と一味違ったものになっていたのではないか、としています。

  

 

例えば、私が「ポチ」という名前の犬を飼っていたとします。

 

声の文化では、
「ポチ」という一匹の犬の話をすることが大事で、
「犬」について話したいわけではないし、「犬」について話すのが大事なのではなかったりするのです。

「ポチ」が今日どんなふうに過ごしたか、「ポチ」と散歩したときにあった出来事などを語ることのほうが大切であったりします。

 

声の文化に根ざした精神は、定義に無関心である。
語の意味は、そうした意味がつねにそこに固着こちゃくしている現実の状況からしか生まれない

W-J・オング著『声の文化と文字の文化』p.103
※ 太字はM先生による

  

M先生
M先生

「作文を書く」ことが苦手、という人はいますよね。
この声の文化文字の文化を意識すると、少し「作文」への取り組み方が変わってくるのではないかな、と思っているのです。

  

口頭伝承こうとうでんしょうについて

  

M先生
M先生

皆さんは「口頭伝承こうとうでんしょう」と聞いて、どのようなものかイメージできますか?
口承こうしょう」などとも言いますね。

 

歌いついだり、語りいだりして、口から口へと伝えること。あるいは伝えられたもののことです。
口から伝え・伝わることなので、「口伝くでん」、「口伝くちづたえの伝承でんしょう」などとも呼ばれます。

 

つまり、文字による記録きろくに頼らずに、その人が語ることをつうじて物語や内容を見知っていくというものです。

 


日本で代表的な口承文学こうしょうぶんがくとして指摘されることがあるものに、『平家物語へいけものがたり』があります。
これまでも「フネで旅する漢字の海原シリーズ⑤ 夏のおさかな天国」など、いくつかの記事の中で紹介してきたことがありますが、『平家物語へいけものがたり』とはどのような作品なのでしょうか。

 

M先生
M先生

国語の教科書にも出てくる有名な作品ですね。「祇園精舎ぎおんしょうじゃかねこえ、諸行無常しょぎょうむじょうの響きあり。娑羅双樹しゃらそうじゅの花の色、盛者必衰じょうしゃひっすいことわりをあらはす」という言葉から始まる作品で、最初のフレーズを知っている人はとても多いです。

 

平家物語へいけものがたりとは

中世初期に成立した軍記物語ぐんきものがたり。12巻。
平清盛たいらのきよもりを中心とする平家一門へいけいちもん興亡こうぼうを描いた歴史物語で、「平家の物語」として「平家物語」とよばれたが、古くは「治承じしょう物語」の名で知られ、3巻ないし6巻ほどの規模きぼであったと推測されている。それがしだいに増補ぞうほされて、13世紀中ごろに現存げんぞんの12巻の形に整えられたものと思われる。

平家物語へいけものがたりは、本来は琵琶びわという楽器の弾奏だんそうとともに語られた「語物かたりもの」で、耳から聞く文芸として文字の読めない多くの人々、庶民しょみんたちにも喜び迎えられた庶民しょみん台頭期たいとうきである中世において、『平家物語へいけものがたり』が幅広い支持を得ることができたのもこのためで、国民文学といわれるほどに広く流布るふした原因もそこに求めることができる。平家物語へいけものがたり』をこの「語物」という形式と結び付け、中世の新しい文芸として大きく発展させたのは、琵琶法師びわほうしとよばれる盲目もうもく芸能者げいのうしゃたちであったが、古い伝えによると『平家物語へいけものがたり』ばかりでなく、当初は『保元ほうげん物語』や『平治へいじ物語』も琵琶法師びわほうしによって語られていたらしく、また承久じょうきゅうの乱を扱った『承久記じょうきゅうき』という作品もそのレパートリーに加えられていたといい、これらを総称して「四部の合戦状」とよんだ。

(日本大百科全書より)

平家物語へいけものがたりといえば、琵琶法師びわほうしが語った作品として知られているのです。

 

M先生
M先生

みなさんは、『耳なし芳一ほういち』という怪談かいだんを知っていますか?
おばけのはなし」でも取り上げた、小泉八雲こいずみやくもの『怪談かいだん』の中に収録しゅうろくされた物語ですが、この物語の主人公も琵琶法師びわほうしです。

気になる方は、青空文庫の「耳なし芳一ほういちの話」をみてみてください。

 

平家物語へいけものがたりより「祇園精舎ぎおんしょうじゃ」 / 筑前琵琶ちくぜんびわ 川村旭芳かわむらきょくほう

 

「びわ」と聞くと果物の「びわ」を連想する人もいるかもしれませんが、果物の「びわ」という名前は楽器の「琵琶びわに形が似ている、ということに由来しているそうです。

正倉院しょうそういんにある「螺鈿紫檀五絃琵琶らでんしたんのごげんびわ」は、その美しさから有名です。

 

 

琵琶法師びわほうしとは、琵琶びわ伴奏ばんそうにして叙事詩じょじしを語った盲目もうもく法師形ほうしけい芸能者げいのうしゃです。

山鹿良之やましかよしゆきさんは、明治34年生まれ、昭和48年に亡くなった最後の琵琶法師びわほうしと呼ばれる方です。動画では『羅生門らしょうもん』をうたっていらっしゃいます。

 

盲僧琵琶 山鹿良之 「羅生門」 Story of Rashomon

 

M先生
M先生

みなさんは、どんなふうに感じられたでしょうか?
私は「ぞぞぞ」とするようなすごみを感じます。
カッコいい…!と聞きほれてしまいます。

 

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