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実際に調べてみた!―「あう」
「あう」とよんで、実際に人と「あう」ことを意味する漢字には、
「会う」、「逢う」、「遇う」があります。
どんなふうに使い分けたらいいのでしょう…?
そもそも「あう」という言葉の意味
①たまたま出会う。行きあわせる。
「駅で友人とあう」
②面会する。対面する。
「あう約束をする」
現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)を使ってみると、
「会う」は3999件
「逢う」は248件
「遇う」は38件
の用例が抽出されました。
圧倒的に「あう」という言葉で使われている漢字は「会う」なのですね。
それぞれの漢字への注目―「会」・「逢」・「遇」
ここで登場するのが漢字辞典。
M先生は紙の辞書とオンラインの漢字辞典を併用しながら調べてみました。
会
会意文字・もともとは「合う(集まりあう)」から構成された「會」の省略形。
【意味】
㋐集いあう。集合する。
㋑対面する。接見する。まみえる。
㋒符合する。あう。かなう。
㋓うまく出会う。めぐりあう。
(さとる/かなめ、物事の要点/たまたま、おりしも/かならず、きっと/かぞえる)
熟語など
…「こんどはいつ会うだろう。」「いつだろうねえ、しかし今年中に、もう二へんぐらいのもんだろう。」「早くいっしょに北へ帰りたいね。」「ああ。」「さっきこどもがひとり死んだな。」「大丈夫だよ。眠ってるんだ。あしたあすこへぼ…
宮沢賢治 「水仙月の四日」
…それから笑いながら、「こんな非道い目に会うということが分ったら、お母さんはあいつらにお茶一杯のませてやるなんて間違いだということが分かるでしょう!」――それは笑いながらいったのですが、然しこんなに私の胸にピンと来たことがありませんでし…
小林多喜二 「疵」
…こう思ったから自分はその夕方、小母さんや初やなどに会うのが気になった。二人が何とか藤さんの身の上を語って、千鳥の話を壊しはしまいかと気がもめた。 小母さんは帰ってくるやいなや、「あなたお腹がすいたでしょう。私気になって急いで帰ったの…
鈴木三重吉 「千鳥」
逢
形声文字・「辵(=ゆく)」から構成され、「峯」の省略形が音。
【意味】
㋐遭遇する、
㋑人に出会う
(思いがけなく会う/迎える/意を迎える、相手の気持ちに合わせる/大きい/ゆたか)
熟語など
…銀座は、たいへんな人出であった。逢う人、逢う人、みんなにこにこ笑っている。「よかった。日本は、もう、これでいいのだよ。よかった。」と兄は、ほとんど一歩毎に呟いて、ひとり首肯き、先刻の怒りは、残りなく失念してしまっている様子であった…
太宰治 「一燈」
…「常に孤独で居る人間は、稀れに逢う友人との会合を、さながら宴会のように嬉しがる」とニイチェが云ってるのは真理である。つまりよく考えて見れば、僕も決して交際嫌いというわけではない。ただ多くの一般の人々は、僕の変人である性格を理解してくれないの…
萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
…どういう目に逢うても」こう言いさして三男市太夫は権兵衛の顔を見た。「どういう目に逢うても、兄弟離れ離れに相手にならずに、固まって行こうぞ」「うん」と権兵衛は言ったが、打ち解けた様子もない。権兵衛は弟どもを心にいたわってはいるが、やさしく…
森鴎外 「阿部一族」
遇
形声文字・「辵(=ゆく)」から構成され、「禺」が音。
【意味】
㋐思いがけなく出会う。
㋑会見する。
㋒でくわす。
㋓触れる。
㋔投合する。
㋕めぐり会う。
㋖(採用などの)願いがかなう
(あう、出会う、思いがけなく出会う/時世に合う/当たる、敵対する/もてなす/たまたま/おり、機会)
熟語など
…恋に倦だ奴ほど始末にいけないものは決して他にあるまい、僕はこれを憎むべきものと言ったが実は寧ろ憐れむべきものである、ところが男子はそうでない、往々にして生命そのものに倦むことがある、かかる場合に恋に出遇う時は初めて一方の活路を得る。そこで全…
国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
…初めのうちは青い道を行ってもすぐ赤い道に衝当たるし、赤い道を辿っても青い道に出遇うし、欲張って踏み跨がって二つの道を行くこともできる。しかしながら行けども行けども他の道に出遇いかねる淋しさや、己れの道のいずれであるべきかを定めあぐむ悲しさが…
有島武郎 「二つの道」
…私がその風に遇うか何うか分らないが、遇ったら言伝をいたしましょう。」と言って、その風も何処へとなく、去ってしまいました。 海は、灰色に静かに眠っていました。そして、雪は風と戦って、砕けたり飛んだりしていました。 こうしてじっとしてい…
小川未明 「月と海豹」
いかがだったでしょうか。
ちなみに「あう」にはまだ漢字があります。
「合」と「遭」。こちらもついでにみていきます!
合
会意文字・「口を合わせる」。「口を集める」。
【意味】
①ものとものとが一つになる。
「本線と支線が合う地点」
②性格や傾向が一致する。調和する。
「彼とは気が合う」
③基準などにうまくあてはまる。
「サイズが合う」
熟語など
…――そんな事を云い合う内に、我々はもう風中を先に、狭い店の中へなだれこんでいた。 店の中には客が二人、細長い卓に向っていた。客の一人は河岸の若い衆、もう一人はどこかの職工らしかった。我々は二人ずつ向い合いに、同じ卓に割りこませて貰った。…
芥川竜之介 「魚河岸」
…織田氏程の人が、東京の感情に合うような細工が出来ない訳はないだろうし、そういう細工をすれば、というくらいのことを感じないわけはないと思うが、それにも拘らず、あの作品を書き送ったということは、東京文壇に対する一種の反逆と見られないことはないと…
織田作之助 「東京文壇に与う」
…佐吉さんの兄さんは沼津で大きい造酒屋を営み、佐吉さんは其の家の末っ子で、私とふとした事から知合いになり、私も同様に末弟であるし、また同様に早くから父に死なれている身の上なので、佐吉さんとは、何かと話が合うのでした。佐吉さんの兄さんとは私も逢…
太宰治 「老ハイデルベルヒ」
遭
形声文字・「出会う」。「辵(=ゆく)」から構成され、「曹」が音。
一説に、うねうねとめぐりゆく、という。
【意味】
たまたま好ましくないことを経験する。
「夕立に遭う」
(めぐりあう、であう/めぐる、かこむ/たび、回/受け身を表す助字)
熟語など
…それゆえにヤコブのように、われわれの出遭う艱難についてわれわれは感謝すべきではないかと思います。 まことに私の言葉が錯雑しておって、かつ時間も少くございますから、私の考えをことごとく述べることはできない。しかしながら私は今日これで御免を…
内村鑑三 「後世への最大遺物」
…何さま、悪く放免の手にでもかかろうものなら、どんな目に遭うかも知れませぬ。「そこで、逃げ場をさがす気で、急いで戸口の方へ引返そうと致しますと、誰だか、皮匣の後から、しわがれた声で呼びとめました。何しろ、人はいないとばかり思っていた所でご…
芥川竜之介 「運」
…だから吉田の頭には地震とか火事とか一生に一度遭うか二度遭うかというようなものまでが真剣に写っているのだった。また吉田がこの状態を続けてゆくというのには絶えない努力感の緊張が必要であって、もしその綱渡りのような努力になにか不安の影が射せばたち…
梶井基次郎 「のんきな患者」
どうやら、用例だけを見る限りでは、「会う・逢う・遇う」には明確な意味の違いがあるわけではなさそうですね。
特に「会う」は万能です。
でも、特に「あう」という言葉に意味を込めたいときに「逢う」や「遇う」は使っていそうです。
例えば「逢瀬」や「逢引」などはデートのようなニュアンスが含まれるので、なんとなく「逢う」という漢字が使われると恋愛や縁の要素があるのかなあ、とM先生は感じています。
「遇」は「奇遇」や「不遇」などその偶然性や思いがけず…といったニュアンスが含まれるような印象を持ちました。
「遭う」はあまりよくない出来事との遭遇(遭難、などの言葉もありますね)、
「合う」は「符号」、「合意」、「合点」など“一致”をイメージさせるような漢字ですね。
同訓異字の使い分けを見定めていくプロセスは、丁寧に言葉に注目していく必要があるようです。
やっぱり同じように探索して同訓異字に迫っている研究者の方の分かりやすい記事がありました。