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前回は「アルファベットとはなにか?」と題し、実はアルファベットは英語のアルファベットだけではないことを紹介しました。今回は、それぞれの英語のアルファベットの形や音について詳しく紹介できたらと思ったのですが、せっかく前回の記事のなかで「子音はフェニキアで、母音はギリシアで生まれた」というお話を少ししたので、今回は各アルファベットの形と音に入る前に、もう少し「母音と子音」のお話をしたいと思います。
そもそも文字とは?
そもそも文字ってなんでしょうか。例えば、次の絵(記号?)をみて「これは文字だ」と思いますか?
ሀሎ. ዛሬ ቀዝቅ ,ል ፣ አይደለም ፡፡
わたしたちが文字を文字だと認識できるのは「みているその文字に音がついていて、なんと読むのか音が鳴ってわかるから」というお話を聞いたことがあります。そう考えると、今この記事も、文字を見て音が鳴っている人にとっては読みやすく、音が鳴らない人にとっては読むことが難しいかもしれません。(そんなときは「文字で読む」のではなく、スクリーンリーダーで「音で読む」という方法があります。スクリーンリーダーについて、詳しくは「スクリーンリーダ特集1:【入門編】「スクリーンリーダー」とは何ぞや?」をご覧ください)
音が鳴らなければ、上の絵(記号)をずっと眺めているような感覚かもしれません。ちなみにこれはアムハラ語というアフリカ・エチオピアの言語なのですが(Google翻訳を使ってみました)、なんと書いてあるのか、これまでアムハラ語に触れたことがなかったので、全くわかりません。そうなると、これはもう文字としてではなく、絵や記号として認識しているというほうが近いかもしれません。絵や記号と、文字との違いは「音が鳴ること」だとすれば、文字を「読むことができない」ということは、音が鳴らないために文字として認識することが難しいということになります。そのくらい、文字と音には重要な関係があります。
ということで今回は、文字に必要不可欠な音を「母音と子音」の2つに分けて紹介したいと思います。
母音と子音とは?
皆さんは、母音と子音の違いって何か知っていますか?普段あまり意識することがないかもしれませんが、この違いを知っていると、日本語・英語の発音・発声がしやすくなるかもしれません。
色々な説明の仕方ができると思いますが、音声を使ってコミュニケーションする時、その音声は文字通り「音」と「声」に分けることができます。今、この記事を書いているのが6時なのですが、たとえば日本語の「ろくじ」の「ろ」は、“r”という音と、「お」という声でできています。この、“r”を子音といい、「お」を母音といいます。
子音とは
“r”の音は、まず日本語の「る」を発音する時の口を作るとわかりやすいかもしれません。「る」と発音してみると、必ず舌が上あごにタッチしています。この、上顎に舌がタッチした状態から、「らりるれろ」を上顎に舌がタッチしないように言ってみると、”r”の発音になっていると思います。
この“r”は子音だと言いましたが、今少し紹介したように、子音は必ず「口のどこかで音が遮られる」音になっています。”r”の場合は、舌をあげて壁を作って音がそのまままっすぐ出ることを遮っています。他にも、「たとえば」の「た」は”t”と「あ」でできていますが、この”t”の音は、舌先を上あごにくっつけて、いったん音がそのまま出るのを遮ってから(ちょっと音を「ためる」と言うとよいでしょうか?)出します。気になる方は、子音がつく五十音を発音してみて、確認してみてください!このように、必ず口のどこか(舌や唇など)で音が遮られる(あるいはいったん遮られてから出す)のが子音です。
母音とは
先に子音のお話をしましたが、それでは母音はどのようなものなのかというと、ずばり「音が遮られず、ストレートに口から出る」音になります。そして、母音は何にも遮られないために「声」になって届きます。だから子音は「なんか出してはいるけどどこかで遮られている(遮られた)音」で、母音は「(言い方は悪いですが)邪魔がどこにも入っていないからストレートに伝わる声」と言うことができます。これは「あいうえお」と言ってみると先ほどの子音のようにどこかで遮られていないことが明らかにお分かりいただけるかなと思います。
(余談)ちなみに、日本語の母音は「あいうえお」という文字で表されていますが、世界に母音は「あいうえお」だけではありません。英語など他の言語に触れ、発音に悩んだことがある方にとっては「なんでこんなに母音が多いんだよ…」と悩みの種になっているかも?しれません。しかし、実は英語は日本語の五十音よりも少ないです(諸説あり)。そして、英語の場合は日本語よりも圧倒的に「やる気のない母音」が多いです。「やる気がない」とはどういうことなのかは、サロンで説明しておりますので、気になった方は是非ご参加ください。
母音の文字
前回も軽く触れましたが、フェニキア地方で子音が、ギリシアで母音が生まれました。ギリシアは今も国として存在しているので、まだ馴染みがあるかもしれませんが、フェニキア地方という言葉はあまり聞いたことがない方もいるかもしれません。フェニキア地方とは、紀元前15世紀頃から、紀元前8世紀頃まで(つまりスーパーウルトラ昔に)地中海の沿岸に存在していた地方です。同じくギリシアも地中海に面した国なので、ご近所の関係だったといえます。
フェニキア地方には当時セム人が住んでおり、セム人が使っていたアルファベットにはさらに祖先がいますが、まず子音の文字がこのフェニキア地方で生まれ、次にその文字がギリシアに行って、ギリシアで母音の文字が生まれたそうです。初めは子音を表す文字しかなかったということになります。
母音の文字は昔は全然大事じゃなかった?
歴史をさかのぼってみると、フェニキアのセム人の文字に母音は存在せず、子音しかなかったようです。
例えば、「HAKUI HAKASE(はくいはかせ)」と伝えたい時は、次のように子音しか文字に残していなかったということがわかっています。※フェニキアのアルファベットではなく、現在の英語のアルファベットで表しています。
HAKUI HAKASE→HK HKS
もしかしたら、セム人はみんなの声などの情報だけで十分で、全てを文字にしなくても、ささっとメモをとっただけで「あー、あのことか」とみんなが何を言っているのかわかっていたのかもしれません。文字を「読む・書く」ことに重心を置く文化とはまた異なった世界が、フェニキアには広がっていたのかなと思います。
母音の文字の発明
ここまで母音と子音とは何か、そして子音の歴史を見てきましたが、フェニキアでは実は母音を文字にして書くということはされておらず、全て子音の文字で表されていたと言うお話をしました。しかし、その後ギリシアへアルファベットが伝わり、母音の文字も発明されることになります。ギリシア人にとっては、母音の文字がどうしても必要だったのですね。
ギリシアで母音が発明されて、それまで文脈を知っている人同士のメモ書きで伝わっていた内容だけではなく、未知の物事だったり、抽象的な概念なども文字で表されるようになっていきました。母音の発明によって、可能になったこともたくさんあったのですね。その場で一緒に話をしていなかった、文脈を共有していない人にとっても、何を伝えたいのかわかりやすくなりました。
それでは、どのように母音の文字が生まれていったのでしょうか。気になるところですが、せっかくなのでここからは第3回の記事で、アルファベットの最初の母音の文字”a”について取り上げながら紹介したいと思います。
まとめ
- 私たちが文字を文字と認識できるのは、その文字を見て「音が鳴る」から
- 子音はどこかで遮られて出す音のこと
- 母音は何にも遮られずにストレートに出る声のこと
- 初めは子音の文字しかなかったが、後から母音の文字が発明された。
次回はいよいよアルファベット”a”の音・形について紹介します!
参考にした本
ローラン・ブリューゴープト(2007)『アルファベットの事典』(南條郁子訳)創元社
田中美輝夫(1970)『英語アルファベット発達史 文字と音価』開文社出版