第1回 学びの危機カンファレンス

さんかくすと文がえます

 

開催概要

開催経緯

 新型しんがたコロナウイルス感染症かんせんしょう(COVID-19)流行りゅうこうを受けて長期休校ちょうききゅうこうやオンライン化など子どもたちの「学び」をめぐる環境も、混乱の中にありました。特に障害があったり事情があって学びの困難を抱えている子どもたちにおける状況は、学校での学び、家庭学習ともさまざまな問題に直面しました。
 学校が再開し、その形を急速に取り戻してきているとはいえ、いま感染拡大かんせんかくだいが止まらない中で、Learning Crisis(学びの危機きき)と呼ぶべき状況はつづき、さらに深刻しんこくになりかねないともいえます。

 そこで、まなキキ(学びの危機研究会ききけんきゅうかい)では、COVID-19の拡大から現在にいたるまでを振り返り、私たちに何ができて、何ができなかったのか。これからどうすればいいかを、みなさんと一緒いっしょに考える、ミニシンポジウムを開催かいさいしたいと思います。
研究・教育・地域の方々と語りを深めるパネル・ディスカッションと、各教科の学びをグループワーク的に考えるプレ・ワークショップ「まなキキ公開編集会議こうかいへんしゅうかいぎ」も開催かいさいいたします。どなたでも無料でお申し込みできますので、ぜひみなさん、ご参加下さい。

開催スケジュール

2020年7月30日(木)16:20 ー 17:50
オンライン開催かいさいちらしデータ

16:20 公開編集会議開催かいさい

16:25 ワークショップ開始

17:05 各部会報告 (10分報告+5分質疑しつぎ
  17:05〜 国語
  17:20〜 英語
  17:35〜 社理数

17:50 公開討論会こうかいとうろんかい終了。休憩きゅうけい

18:00 パネルディスカッション開始

18:05 基調報告きちょうほうこく松崎良美まつざきよしみさん
18:35 パネリスト報告(1)島田徳隆しまだのりたかさま (15分)
18:50 パネリスト報告(2)股野儷子またのれいこさま (15分)

19:05 総括討論そうかつとうろん

19:30 終了

プレ・シンポジウム まなキキ公開編集会議

より子どもたちに寄り添った楽しい学びの提案をしていけるよう企画された公開編集会議こうかいへんしゅうかいぎ

公開編集会議こうかいへんしゅうかいぎの報告は、各教科のページで更新こうしんされます!また、「学びのナビゲーター」記事としても報告されていく予定ですので、ぜひお楽しみに!

国語からの企画案はこちら
英語からの企画案はこちら
社理数からの企画案はこちら

パネルディスカッション Learning Crisisとは何か

パネルディスカッションでは、Learning Crisisを振り返りながら、議論を進めていきたいと思います。

パネリスト
松崎良美まつざきよしみさん(津田塾大学 Learning Crisis研究会事務局長)
島田徳隆しまだのりたかさん(認定NPO法人アンガージュマン・よこすか理事長)
股野儷子またのれいこさん元筑波大学附属視覚特別支援学校もとつくばだいがくふぞくしかくとくべつしえんがっこう非常勤講師)

ファシリテーター 
柴田邦臣しばたくにおみさん(津田塾大学准教授 Learning Crisis研究会代表)

参考資料

Learning Crisis研究会発足ほっそく経緯けいいあわせて、「Learning Crisisの経緯」を作成しています。
よろしければ、ご活用ください!

当日の開催報告

当日は、当初想定していた以上に多くの方にご来場いただきました。
限られたお時間の中、ご参加くださりましたこと、改めて心より御礼申し上げます。
本ページでは、主にパネル・ディスカッションのご報告をさせていただきます。

編集会議のご報告は各教科のページをご覧ください。
( 国語 ・ 英語 ・ 社理数 )

基調報告

 Learning Crisis 研究会からの報告という形で、
1)Learning Crisisがどのように始まったのか、その経緯について
2)Learning Crisis経緯に呼応して、まなキキサイトがどのように展開してきたか
3)今改めて考える問題の整理

という枠組みでご報告させていただきました。

第1のフェーズ:休校要請が出されて

LC経緯①_2/28休校要請→4/77都道府県に緊急事態宣言→4/16緊急事態宣言の全国拡大


2月の終わりに出された休校要請。当時の感染者数そのものは多くなかったですが、学校は休校となります。

3月24日は学校再開に向けた指針が文科省から出されますが、感染者数は激増。
萩生田光一文部科学大臣記者会見録(令和2年3月24日) 

新学期は何とか迎えるものの、4月7日の緊急事態宣言を受けて、改めて学校は休校となります。

  

方針が二転三転することによる学校の混乱
 卒業式や卒業生を送る会などのイベントも中止に

家庭での混乱
 家庭で子どもたちを見守るためのやりくり・調整でパニック

子どもたちの落胆
 「大切」であったはずの学校がなくなる
→学びへの不信・疑問・諦観があったのではないか。:Learning Crisis

Learning Crisis研究会の動き1.

■ Learning Crisis研究会の発足

■ 現状把握のためのリサーチ
オンライン上で公開されている学習支援教材の探索
それぞれ制作者の思いがこもったものばかりだったが、障害のある子どもたちを対象にした教材はなかなか見つけることができなかった。

当時どんなふうに出来事が展開していたか、節目節目を生々しく記録しよう、ということで撮り始めた映像の一本目。「Learning Crisis」とは何か 前編

 

 

第2のフェーズ:休校期間

LC経緯②_5/4緊急事態宣言の延長→5/14一部地域を除く緊急事態宣言の解除

休校は思ったよりも長く続き、5月4日の緊急事態宣言の延長…ゴールデンウイーク明けの14日にようやく一部地域を除いて緊急事態宣言が解除され始めます。

休校中は授業ができないので、文科省からは4月10日に「家庭学習が学習評価に反映可能」という通達を出しています。
リシード「家庭学習も評価に反映…文科省が通知」2020/4/13 より

また、この期間中はICT活用してオンライン授業を進めている学校と、進められていない学校の格差がよく報じられました。オンライン授業を進められない背景には、通信環境や設備の不足などが問題だ、という論調が目立ちます。

 

不満と困惑、戸惑いの声
 親は先生の代わりにならないし、家庭は学校の代わりにはならない。
 参考)2020年4月14日 婦人公論.jp「【新型コロナ】瀧波ユカリ「〈家庭学習分は授業不要〉の文科省通知で広がる困惑。今親たちが求めるものは」 

ICT活用の格差を問題視する声
 「実施できていないところがある」ことについての問題
 参考)2020年4月7日 Resemom.Biz「休校中の学習支援…横浜市は全教科映像授業、渋谷区はタブレット活用
   2020年5月2日 神戸新聞NEXT「どうなるオンライン学習 休校長期化で喫緊の課題
   2020年5月13日 AERA.dot 「休校の長期化で生じる「教育格差」の根本原因 各学校や自治体によって整備にもばらつき

Learning Crisis研究会の動き2.

■ まなキキサイトの公開!(4月末)

■ おすすめリンク集
  各教科別の学びのためのリンク集。どんなところがオススメのポイントなのか見所の説明と、障害や事情がある人が活用する際のアドバイスを示す

■ 学びの羅針盤
  オンラインで、在宅で勉強するときにしているとちょっと便利なテクニック集。
障害や事情がある子どもに便利なリンク集

 

「Learning Crisisとは何か」後編(1)学校の変化とオンライン 

  

  

第3のフェーズ:続く休校とはじまる分散登校

「学習の遅れ」のさまざまな議論
・ 9月入学の議論
・ 夏休み短縮方針
・ 土曜日の授業実施

参考)2020年5月18日 日経ビジネス 「賛否渦巻く『9月入学』、今年度は『実質11カ月』案も浮上
  2020年5月19日 HUFFPOST 「東京23区のオンライン授業はどうなった? 一斉休校で保護者たちが動く

一部地域で始まる分散登校
参考)2020年5月11日 nippon. com 「再開と休校 広がる教育格差 “オンライン”受講できない子も
   2020年5月17日 BESTT!MES 「『分散登校』で顕在化しはじめた学力格差…その是正策と責任

家庭学習のきつさ、保護者や子どもたちのメンタルヘルスの不安視
参考)2020年5月16日 J-CASTニュース 「家庭学習の「時間割」がしんどい 一部小学校など導入、助かりもするけど…働く親の戸惑い

日本は、「オンライン後進国である」という認識
「オンライン先進国」であるはずの国々からはオンライン授業の問題や課題を指摘するものもありましたが‥‥
参考)2020年4月26日 「フランスのコロナ休校「在宅授業」が「用意周到なのに失敗」したワケ
   2020年6月9日 47NEWS 「休校が子供たちにもたらした変化とは スイス、学校に通う意義を見失った生徒も【世界から】

「学ぶ意欲」の低速

Learning Crisis研究会の動き3.

■ 学びのナビゲーターページの拡充
  ちょっと少し年上のお姉さんが、面白がって取り組んでいることを子どもたちに紹介する、というようなコンセプト
  「航海士=ナビゲーター」航路を示すが舵は切らない

M先生
M先生

学びのナビゲーターにはどんな人がいるのか??
については、「まなキキをつくっている人ってどんな人?」をご覧ください。

 

「Learning Crisisとは何か」後編(2)「隔絶された格差」と「学び」の意味 

 

 

第4のフェーズ:あたらしい生活様式とオンライン化の推進

LC経緯③_5/21緊急事態宣言関西2府1県の解除→5/25緊急事態宣言全面解除→6/19都道府県またぐ移動の自粛の緩和→7/10イベントの開催制限緩和

学校中旬から下旬にかけて、緊急事態宣言は解除されていきました。
また、移動の自粛の緩和につづき、イベント開催の制限も緩和されていきます。

学校も再開されましたが、あたらしい生活様式に基づいたさまざまな感染防止対策がとられます。
・ 実技の中止や変更
・ 行事の中止や変更
・ マスク着用・私語厳禁
・ 社会的距離の維持

学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル~「学校の新しい生活様式」~

 

「学習の遅れ」への挽回も深刻です。
入試出題範囲が縮小されるなどもしました。
一方で、先生方の負担が増えたこと、教員不足についての言及も目立ちます。

また、第二派への恐れと備えの必要性もさまざまに指摘されました。
参考)2020年7月20日 INTERNET Watch 「休校中に授業動画500本作った公立中の“奇跡”、新卒から60代まで全教員の「学びの空白を作らない」戦い
   2020年7月20日 現代ビジネス 「パソコンを渡して見守っただけで子どもたちの学力が劇的に伸びた理由

学校の意義の問い直し
 学校とは、どのような場だったのか、どのような過ごし方や人間関係が持たれた場所だったのでしょうか。

盲目的なオンライン礼賛
 もちろん、問題を指摘する記事もあるのですが、どちらかというと設備や接続環境について触れたものがほとんどです。
 内容は問わず、オンラインで何かやってる、というだけで「よい」となってしまいがちな印象もありました。

教育市場の拡大
 ニーズの高まりとともに良質なコンテンツの発信も…

Learning Crisis研究会の動き4.

■ オンラインでの講演会や講読会の開催
オンラインの学びとリアルの学びの接続を目指して

2020年度IES教育支援研修のちらし
まなキキオンライン講読会のちらし

講演会開催報告はこちら▶ 第1回 第2回 第3回 第4回
まなキキ講読会報告はこちら ▶ 第1講 第2講 第3講

 

 

そして、今問われていること

「学ぶ」ということの本質的意味について

今回、さまざまな記事を概観して感じたのは、オンライン授業になれば万事うまくいく、といった風潮があったことです。
ですが、果たして本当にそうなのでしょうか?

 

ただスケジュールどおりに進めるには、休校している間に生徒の学力が落ちていないことが必須です。
学力が落ちていた場合は、授業時間を復習に割く必要が出てきます。3年生は1、2年生の内容をしっかりと身につけているのか確かめるため、松尾さんはテストを実施しました。
ところが単純な計算問題などはほとんどの生徒ができていた反面、図形や証明の問題は、何も書かれていない答案が目立ちました。休校は生徒から「学び、考える意欲」を奪ってしまったのではないか。
そう思わざるを得ない結果でした。

2020年7月9日 おはよう日本特集ダイジェストまとめ 「どう取り戻す?“学習の遅れ”

 

「学び、考える意欲」は、果たしてオンライン教材を推進しさえすれば取り戻すことができるのでしょうか。

オンライン授業でのつまずきを報じる記事もあることを考えると、単純に「そう」とは答えを出すことはできなさそうです。
参考)2020年7月8日 朝日新聞デジタル 「オンライン授業に我が子苦戦 欧州でパパ記者が思うこと

  

では、学校が再開されたら、よいのでしょうか。
実はそうも一筋縄ではいかなさそうだ、ということを皆さんも感じていらっしゃるのではないでしょうか。

 

休校中に遅れた授業時数を取り戻すために、授業時間や休み時間を短縮して1日あたりの授業時数を増やしたりもしている。急げ、急げと教員は子どもたちを急かさなければならない。
ICT活用も積極的に推進せよとの方針を押し付けられ、不慣れな機器の操作を学習しなければならず、子どもたちへの指導にも頭を悩ませなければならない。かなりの時間をとられることにもなる。

2020年7月12日 BESTT!MES 「教員が激務に耐えるのは文科省ではなく子どものため

 

今、学校が求められているのが「学習への遅れ」をどう取り戻すか、ということです。
夏休みが短縮された学校は多くあります。
夏休みといえば醍醐味だった自由研究などの宿題も、今年は「配慮」でなしになるところも多いそうです。
問題は学習指導要領に定められた範囲を終わらせることができるかどうか、ということになってしまうわけです。

参考)2020年6月28日 京都新聞 「夏休み短縮、授業数どう確保する? 小中学校、土曜授業検討も 詰め込みや教員過労に懸念
   2020年7月22日 新潟日報 「短い夏休み 「定番」に影響県内小学生 自由研究やラジオ体操

私たちは、Learning Crisisが起こってから今まで、それぞれの持ち場で、子どもたちも学生も、保護者をはじめとした家族や先生方、周囲の大人たちもみな、それぞれが本当に努力してきたと思います。

ですが、Learning Crisis研究会を発足させるきっかけとなった「危惧」-
子どもたちが「学び」に対して不信感や疑問、あきらめの感情を持ってしまうのではないか、という恐れは、
あの当時と変わらないか、もしくはより一層強まってしまっているのではないでしょうか?

オンライン講読会で読んだ2冊の力を借りて―

「私は学びたい」という言い方は「私は教育を受けたい」と言いかえられる。
…中略… 前者では主語は自分自身が行為するものであることを示し、後者では主語は自分自身が消費するものであることを示している。

イヴァン・イリイチ著『コンヴィヴィアリティのための道具』,p.199

道具についての所有を表わすいいかたは、道具の産出物や資本が生む利子や商品一般を支配する能力とか、道具の操作と結びつくなんらかの威信を意味するようになる。

イヴァン・イリイチ著『コンヴィヴィアリティのための道具』,p.198

 

今、教育の現場で行われていることとは、「よい点数を取って、良い進学をして、よりよい「教育」を獲得する、ということになりがちなのではないでしょうか。
イリイチがいう様な、自分自身が行為するものとして学ぶこと、学ぶ主体として社会や世界、人々と向き合い、考え、世界と関わっていこうとする力こそが、今、守られなくてはならないのでしょうか。

これは今までも、特段できていなかったことかもしれません。
しかし、今、もし「そうなのではないか?」と思うなら、学びを”所有”の対象とみなすことに待ったをかけることが求められているのではないでしょうか。

 

M先生
M先生

でも、じゃあ具体的にどうするのよ?とお思いの方もいらっしゃるでしょう。

 

私たちは社会のためなどと大仰な設計や教育に邁進せずに、ただ、A子のためにつくり、A子のために使えばいいのである。A子の存在が広がり、深まるようにテクノロジーを使い、知識を教えるということだけにこだわっていれば、必要なことはA子の方が教えてくれるのだ。その上でA子は、自らがもっとひろく人とつながり(=アクセシビリティ)、もっと深く社会と自分を知る(=ケイパビリティ)ために、自らが生き残っていくためのリテラシー=<生の技法>を得ていくことだろう。私たちに求められているのは、メディアを、そして教育を、そのための場にできているかどうかでしかない。

柴田邦臣, 『<情弱>の社会学 ポスト・ビッグデータ時代の生の技法』p.183

 

<生の技法>というものは、もしかしたら手段が限られているかもしれない障害のある人達にこそ、冷静に論理的にしたたかに生み出されてきているのではないか、
そして私たちは彼らにこそ、学ぶことがあるのではないか、ということがこの本の中では強調されています。

だからこそ、この<生の技法>を鍛錬する場、学び合う場を、どのように生み出して、継続していけるのか、ということを問うていかなくてはならないのかな、と思いました。

 

  

さいごに

災厄は、抑圧されたものを社会過程への参加から排除してきた優勢な力を弱体化するのである。管理を弱体化し、地位を固めた管理者たちをぐらつかせ、方向を見失った人々を表面におしだすのは驚きの力なのである。

イヴァン・イリイチ著『コンヴィヴィアリティのための道具』, p.229

 

もしかしたら、「学ぶ」ということの本質的意味をしっかりと問い直す機会として、私たちが向き合うことができたら、
それはドラスティックに現在の学びの体制・教育の体制を見直す機会にもなるかもしれません。

Learning Crisisという危機の深い本質を正しく把握し、その把握をうまく言葉にすること―私たちが望むことと自分たちにできることと、私たちに必要ないことをはっきり述べられるかが、今求められているのかもしれません。

 

  

島田徳隆さまからのご報告

プロフィール

認定NPO法人アンガージュマン・よこすか 理事長

横須賀市の上町商店街の中にある、はるかぜ書店を運営する傍ら、書店の奥にある学習塾で不登校の児童への学習支援を長年行っている。

アンガージュマンよこすかの学習塾の様子。子どもが三ツ矢サイダーを傍において自習をしています。
アンガージュマン・よこすかの写真。
鮮やかな水色の壁には
学習塾に通う子どもたちが描いた力作が飾られています。

アンガージュマンの目的・成り立ちについて

アンガージュマンは、
「学校に行っていない子どもとその家族を支援するさまざまな活動を中心に学校外での学習及び交流を求める若者の成長と自立をうながし、子ども・若者とその家族、市民が共に自分らしく生きていける環境を模索し、この実現に寄与する」ことを目的に設立された団体です。

1998年に結成された、不登校の子を持つ親の会というボランティアグループが元になって、2004年にNPO法人化し、今のアンガージュマンの活動に続いています。

 

アンガージュマンの活動について

主に、4つの取り組みを行っています。

(1)フリースペース

子どもたちがいつでも自由に遊べる場の提供。
はるかぜ書店の店内の奥に、畳を敷いてゴロゴロできるスペースがあって、子どもたちがふらっと立ち寄って、ゲームをしたり、好きな本を読んだり、おしゃべりをしたりできる場になっています。
遊びを通して、子どもたちが同じような境遇の仲間を作ったり、ありのままの自分を受け入れる機会になればよいと思っていらっしゃるのだそうです。

(2)学習サポート

不登校の子どもたちの学習支援として、1対1の個別指導をする学習塾を開いています。昔は集団授業をしていたこともあったのですが、やはり、それぞれの子どもの事情に合わせてきめ細かいサポートをしたいという想いから、今は個別指導にこだわって取り組みを行っているのだとか。
子どもたちの自己肯定感を高めるような学習サポートを心がけているそうです。

(3)就労支援

主にひきこもりの方を対象に、はるかぜ書店・はるかぜ書店がある上町商店街の店舗での就労支援を行っています。
地域の方に1人の店員として見守られながら実際の業務を行うことで社会参加のきっかけを作っていければと考えておられるそうです。

地域(上町商店街)との連携

アンガージュマンの取り組みを支えている大きな要素として、地域(上町商店街)との連携があります。
商店街のイベントに子どもたちや、ひきこもりの大人たちが参加して、お手伝いをすることもあるのですが、地域の皆様は「不登校だから」「ひきこもりだから」という目で見るのではなく、地域の仲間の一員として私たちの活動を見守ってくださるような関係性で関わってくださっています。地域の皆様と交流することは、子どもたちやひきこもりの大人たちが、多様な価値観に触れる機会にもなっています。そして、地域の皆様からの何気ない声かけが、地域の仲間の一人としての役割を担う力にも繋がっているのではないかと思っています。
地域(上町商店街)の皆様との繋がりは、アンガージュマンの活動にとって欠かせない要素です、とお話しくださいました。

(4)相談

不登校の子どもを持つ親御さんからの相談や、ひきこもりの子どもを持つ親御さんからの支援に関する相談も受け付けているそうです。

 

休校期間中の活動状況について

COVID-19が流行の兆しを徐々にみせていた2020年3月の時点では、学習塾やフリーズペースについては運営を継続するという方針で活動を続けていました。
そのとき、学校は休校になっていましたが、いつも利用してくれている子どもたちは変わらずアンガージュマンに顔を出してくれ、勉強をしたり、思い思いの遊びをしたりしていました。

非常事態宣言が出た5月以降は、横須賀市の担当者やアンガージュマンの関係者、親御さんとも相談し、学習塾への通学をいったんお休み(学習塾・フリースペースの場を休室)にすることになりました。ここから今まで、リアルな場での交流はできなくなってしまっている状況が続いています。
それでも、サポートをしている子どもたちとの繋がりを持ちつづけようとオンラインで個別の学習支援や遊びの時間の提供を続けています。

個別の学習支援についてはGoogle Classroomを使うなどして、なるべく子ども1人1人のリクエストに応えらえるよう、先生側も試行錯誤で授業を行っている状況です。

しかし、オンラインでの遊び(一緒にゲームをしてみる、チャットで会話してみるなど)のバリエーションはたくさん考えられても、学びとなるとなかなか種類が限られてしまうなと課題に感じる部分もあります。

また、子ども側も先生側もオンラインのツールを使いこなしていて、形としてはとても上手く学びが継続できているにも関わらず、「やっぱり、オンラインではなく、アンガージュマンの学習塾に通いたい!」と対面授業を希望する声が多く上がっています。

 

休校期間中の子どもたちの様子について

休校期間中、アンガージュマンに来てくれている子どもたちは、学校が長い間お休みになり、みんなが同じように「学校にいくことができない」状況にあるということで少しだけ肩の荷が下りたように見受けられました。

学校再開後、アンガージュマンで勉強をしている子どもたちのほとんどが、学校の教室にもう一度通えるようになりました。

それでも、1ヶ月ほどすると、学校に通って授業を受けるということに対して息切れをしているような様子が見られるようにもなっていて、長い休校期間があったことが不登校の子どもたちのメンタル面にプラスに働いたように見えた様子については、まだまだ、手放しでは喜べない状況にあると思います。

  

  

股野儷子さまからのご報告

プロフィール

津田塾大学英文学科13回卒。
約15年にわたり、海外7か国8都市に在住。その間英米では母語として、他国ではL2としての初等英語教育法を見聞し、津田英語会において長年独自のメソッドによる「初等英語教育」に携わる。練馬区や港区の公立小学校での指導経験も生かし、2011年度から2019年度まで筑波大学附属視覚特別支援学校幼・小学部で視覚障害のある児童に英語を教えてきた。現在は新宿区の「学童クラブ」の支援にも携わる。

2011年に、筑波大学附属視覚特別支援学校に非常勤講師としてご着任され、2020年3月にご退職された股野先生。

この春は、9年間も授業やクラブ活動で一緒に英語を学んだ児童たちとも、正式に「さよなら」も言わないお別れとなり、非常に残念な思いをされた、ともお話しくださいました。

当日は、股野先生が見えない・見えにくい子どもたちと接する機会をつうじて感じられたこと、大切なことをお話しくださるとともに、子どもたちとのかかわりの中で、生み出した教具・教材についてご紹介いただきました。

 

スウェーデンで見知った「結果の平等」概念

股野先生がスウェーデンで暮らされていた時、「結果の平等」の概念を学ばれる機会があったといいます。

例えば、目の前に川があり、向こう岸まで渡る必要があったとき。
 ―泳いで渡ることができる人は泳いで渡ればよいし、
 ―浮き輪があれば泳げる人は浮き輪を貸してあげればよく、
 ―ゴーグルがあれば泳げる人にはゴーグルを貸してあげる。
などなど、「向こう岸へ渡る」ということを最終的に果たすために、できる配慮や手伝いをする、そのような教育方針がスウェーデンにはあった、と言います。

方法の平等(みんなが泳いで向こう岸へ渡るのだから、全員泳いで渡らなくてはならない)ではなく、
結果の平等(その人にとって適切な方法で向こう岸へ渡る)ことが大事、というその概念にとても感銘を受けた、とご紹介くださいました。

 

盲学校で学ぶ子どもたちの現在

 盲学校で学んでいる子どもたちにおけるICT機器などの扱いについて、中学生などはまだ保護者や先生方の助けを借りながら実施することができているそうですが、
小学生の子どもたちなどについては、やはりなかなかパソコンなどを取り扱うことが難しい状況にある、とお話しされていました。

 そうしたときに、少しでも子どもたちが学びを続けることができるような取り組みの一例として、先生が開発されてきた教材・教具を少しでも役立ててくだされば、とご紹介くださいました。

 股野先生の教え子の子どもたちのみなさんは、一人ひとつずつ、そのキットを与えられ、「あの、たたくやつ」という名前で大変な好評を博したという教材・教具です。

 

ユニバーサル教材教具

筑波大学附属視覚特別支援学校小学部の「外国語活動」の授業実践を通じて開発された教材は、
小学生ならだれでも知っている「数や形」を使って、点字使用の児童も含めて、だれもがともに学べる「ユニバーサル教材」と、それらを提示する「ユニバーサル黒板」とでもいうべきようなものです。

※ このユニバーサル教材教具の説明は、股野先生がご執筆された、
「数と形と物語」で教える「小学校英語」その1 ―筑波大学附属視覚特別支援学校小学部の「ユニバーサル教材教具」―
ジアース 教育新社『視覚障害教育の教科・領域のネットワークづくりをめざして 視覚障害教育ブックレット 』vol.43 ‘20年度1学期号、p20-26.)から適宜引用してご紹介させていただいています。

より詳細な内容に関心がある方は、ぜひ上記論文をご参照ください!

 

9マスボード
縦横7.5センチのマスが3×3で9マス分あるボード。マスには左上から右向きに1,2,3と点字・墨字で番号が振られている。マスの中にはマジックテープがつけられていて、単語カードや形を貼り付けることができるようになっている。9マス枠外にも左右にもマジックテープがそれぞれ3か所付けられていて、ここにも単語カード等を添付可能。
9マスボード

初出の単語学習に際して、先生と口頭練習をしながら、”room 1”から順に貼っていきます。
このボードを使えば、「指し棒」などがなくても、下記のような活動が可能になります。

  a) これは何ですか? What is this?
  b) これはリンゴですか? Is this an apple?
  c) 先生と児童や児童同士でQ&Aができる
  d) 全員で答え合わせができる

 

M先生
M先生

マス目を区切る枠線は触って分かるようなものになっているのだそうです!
外枠と内枠は、材質と太さの違うテープが貼られています。
製作時には、視覚障害のある大学生にも実際に触ってもらうなどコメントをもらいながら、より分かりやすいものを作製する工夫をなさったのだといいます。

K原さん
K原さん

”room1”などは、マスの場所を指しますが、その番号も
点字で記されているので、どのマスに入っている単語の話をしているのか、わかるようになっている、という仕掛けですね!

股野先生
股野先生

実は、こうしたボード類を開発したのち、視覚障害者も参加する講演会などで、触察資料が配布される場合、上下が分るように『右肩部分が切ってある』事例を知りました。

8,9マスボード共に上部中央には星シールを貼って『上』を示していましたが、右肩が大きく切ってある方がより分り易いので、2019年度から、右肩の角が切られた仕様のボードを使用しているんですよ。

 

数字や国旗、店屋・建物、誕生日会グッズ、教科書カードなどのカテゴリの単語カードがずらりと並ぶ。それぞれのカードには手で触って分かるような図がかかれていたり、実物に近いものが貼り付けられていて触って楽しむことができる。点字情報ももちろんついている。
単語カードの一覧
H松
H松

先ほどの9マスボードに貼り付けていくような単語については、
先生お手製の触って楽しい、工夫や仕掛けがたくさんあるものばかりです。
一つの単語カードから様々なトピックスにつながるような工夫も盛りだくさんです。
ある単語がどのような文脈で使われるのか、関連語やそれにまつわる知識や文化も、教員が説明できるような伏線が張られているのですね。(詳細はぜひ論文を!)

 

8マスボード
ひとマス7.5×7.5センチのマスが二行4列で並ぶ8マスボード。向きがわかるように右肩の角は切られている。9マスボードと同様、マスの中とマスの上下にはマジックテープがついているので単語カードを貼り付けられるようになっている。
8マスボード

9マスボードに貼って学んだカードをそのまま連続して使用して、この8マスボードではビンゴ活動ができるように工夫されています。


まず、9マスボードの”rooms 1”に貼り付けたカードから順に先生と単語を言いながら、自分の8マスボードの好きな場所に貼り付けていきます。
すべてのマスに単語をそれぞれ自分の好きな配置で貼り付けた後、先生が読み上げた単語を外して枠外上部の場所に左から右に順に貼り付けていきます(ビンゴカードで番号部分を裏返したり、穴をあけていくのと同じ要領ですね)。

 

「ビンゴ」の場所にも一工夫

 上段ビンゴ(Top-row Bingo)→ Rooms 1, 2, 3, 4
 下段ビンゴ(Bottom-row Bingo)→ Rooms 5, 6, 7, 8
 中央ビンゴ(Center Bingo)→ Rooms 2, 3, 6, 7
 四隅のビンゴ(Four-corner Bingo)→ Rooms 1, 4, 5, 8

 

「ビンゴ!」になった子どもたちは、カードを順に読み上げるなどして参加している全員で単語の復習・答え合わせが可能になります。

 

M先生
M先生

9マスボードから8マスボードに単語を貼りかえていくことになるので、カードは1枚余りますよね。
だから、”Nine minus eight equals one.”などと、英語の引き算を一緒に教えたりするのだそうです…!「なるほど…」と目から鱗ですよね。

H松
H松

さらに、上級生になると、「単語のビンゴ」だけではなく、「文章ビンゴ」にも挑戦するようです…!
例えば、
Tomorrow is Mother’s Day. I want to buy a carnation. So I go to the ~.“などと先生が話し、子どもたちは、”Flower shop!“と回答しながら「花屋」のカードを取る、などといった「聞き取り練習」にもなるような工夫です。…すごい。そして楽しそう!

 

英語文章作成ボード(語順・文型の学習に活用)

当時の6年生の子どもたちの希望で開発されたのがこのボード。
既習の「形」を中学校で学ぶであろう「文法用語(SVOC)」に見立てて、学習を試みたものだそうです。

 

星形Star・Subject・主語
ひし形Diamond・Do動詞Verb
(正方形と区別しやすく、また墨字の「V」を示すため、ひし形の「V」部分にテープが貼られています)
楕円形Oval・Object。~を・目的語
ハート形Heart・How・「如何に」は心で決めるため
正方形Times Square など「場所」を示すWhere
円形腕時計の丸い文字盤」に見立てて、「」を示すWhen
長方形主語と補語の関係を示す(I am a boy.→I = boy)イコールに見立てて横長に使い、蜂 [ bee ]のシールを貼ってbe動詞とする
六角形基本的な6つの助動詞can, may, must, will, shall, need」の学習を視野に入れて、六角形を選択
三日月形Crescent・Complement補語
形とエピソードで覚える文法用語

 

一般動詞(上から順に、平叙文、一般疑問文、特殊疑問文)

 

K原さん
K原さん

このボードを活用すると、
一般疑問文を作る場合は、”Do”(助動詞を示すため、本動詞よりも小さいひし形)を文頭に持ってきて、ピリオドをクエスチョンマークに変えたらいいのだよ、と教え、
「いつ?」と聞きたいときは、円形(When)をそのまた前に持ってくればよく、他は一切動かさなくていい、と教え伝えることができますね…!

  

be動詞(上から順に、平叙文、一般疑問文)

 

助動詞(can)(上から順に、平叙文、一般疑問文)

 

K原さん
K原さん

股野先生は、疑問文の説明をする際は、be動詞や助動詞の蜂の巣(蜂の巣の形は六角形なんですね…!)など、<蜂に関係する文>は、蜂さんはぶーんと飛び、蜂の巣もコロコロと転がって「お星さま(主語)」の前に行く、と身振りも入れて説明されるなどの工夫をしていらっしゃったのだそうです。
かわいく親しみやすく覚えられますね。

M先生
M先生

最後には必ず基本形に戻して、「S・V・O・How・どこ・じかん」とリズミカルに形をたたきながら繰り返し覚えるなどしたのだそうです。
ゲーム感覚で楽しく学べそうで、私もこんな教材が欲しかった…!

今回、より多くの子どもたちが楽しく活用しながら学んでくださったら、とまなキキサイトでご紹介させていただくことをご快諾いただきました!
本当にありがとうございます。

 

※ ユニバーサル教材教具の説明は、股野先生がご執筆された、
「数と形と物語」で教える「小学校英語」その1 ―筑波大学附属視覚特別支援学校小学部の「ユニバーサル教材教具」―
ジアース 教育新社『視覚障害教育の教科・領域のネットワークづくりをめざして 視覚障害教育ブックレット 』vol.43 ‘20年度1学期号、p20-26.)から適宜引用してご紹介させていただいています。

より詳細な内容に関心がある方は、ぜひ上記論文をご参照ください!

 

  

会場からの感想など

不登校の子達や盲学校の子達の様子を聞く機会ができました。その中でも、不登校の子、6人中5人は休校が終わった後登校復帰ができるようになったという話を聞き、休校で勉強が遅れるなどデメリットに目がいく中で、そのようなメリットもあったのだなと知ることができました。
また、盲学校の子は画面が見えないためにzoomの朝礼が行われても、操作を保護者が手伝わなければならないということで、保護者が機器に使い慣れてないといけないということもしり、使い慣れてない保護者の方に私たち使い慣れている者が手助けできないかなと考えました。

私たち大学生は今、まさにLearning Crisisの状況下にあります。自分のことで頭が不安に支配されるとつい、フラストレーションがたまります。しかし、小学生やその保護者、受験を迎える学生、障害を持つ人、というように、今、私以上に辛い状況の方々が沢山いるということに改めて気づかされました。家庭学習を学習評価とするなんて本当に驚きでした。保護者への負担も増しますし、子供たちのメンタルももたなくなってしまう危険があると思います。
股野さんのお話で、視覚障害のある方に対してあらゆる工夫を凝らし、英語の教育をされていることが非常に印象的でした。障害を持つ方は、実際にものに触れたり感じたりして学ぶことが多いと思うので、オンラインでは大変だと思います。
このように健常者、障害者ともに学びの危機は深刻な状況にあると思います。しかし、今日のお話を聞き、皆さんはネガティブに捉えるというよりは、状況を少しでも改善するにはどうしたら良いかを前向きに考えていることに気がつきました。今日の講演をきっかけに自分の状況に対する不満が消え、少しでも誰かの役にたちたいという気持ちが芽生えました。

M先生のご発表で2月から続く非常事態を振り返り、その時々に自分が考えていたことと今感じることの違いを発見できました。
島田さんのお話では、長期休校が不登校だった子どもにもたらす影響が、必ずしも悪いものばかりではないとわかりました。
股野先生の、盲学校での英語の授業にはとても興味をそそられましたし、現在の状況でどうすれば盲学校の子どもがより良い学習環境を作れるか、考えたくなりました。
ありがとうございました。

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「学びの危機」:Counter Learning Crisis Project -学びづらさに向き合う子どもたちの「学びの灯」のために-
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